壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

プリズン・ストーリーズ ジェフリー・アーチャー

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プリズン・ストーリーズ ジェフリー・アーチャー
永井淳訳 新潮文庫 2008年 700円

「大統領に知らせますか」「百万ドルを取り返せ」「ケインとアベル」から「十二本の毒矢」まではたぶん欠かさず読んだけれど、その後ジェフリー・アーチャーをまったく読まなくなりました。ですから、20年ぶりです。相変わらず12という短編の数字にこだわりがあるようで、偽証罪で服役し獄中で取材した実話をもとにした9話と、その他事実に基づく創作3話で数あわせをしています。面白いけれど、ちょっと物足りないような、そんな短編集です。

『自分の郵便局から盗んだ男』の堅実な過去と横領の実際や、著者を『マエストロ』と呼ぶレストランオーナーのイタリア人の鮮やかとも言える脱税の手口は、いかにも事実らしい話です。

しかし、水道に『この水は飲めません』という注意書きのあるロシアのホテルで、妻をだまして水道水を飲ませた男の話は眉唾のように聞こえるし、毎年六ヶ月だけ軽犯罪で服役する男を見て『もう十月?』と皆が言う話はありふれています。

明朝のチェスセットの駒『ザ・レッド・キング』をめぐるコンゲームはJ・アーチャーらしい一編で、離婚調停での大岡裁き、欧米でいうところの『ソロモンの知恵』は、論理ゲームとしてはありふれていますが、語り口は非常に巧みで楽しめました。

英仏間で懲りずに密輸を繰り返す男は『この意味、わかるだろ』と著者を犯罪に誘う。寡黙で冷静な男女の横領を描いた『慈善は家庭に始まる』。刑務所を『アリバイ』に利用した男に下る天罰。

『あるギリシア悲劇の結末は三秒くらい分かりませんでした^^;。元囚人に騙されたインドの『警察長官』の報復はあまりいただけません。ハンサムな元サッカー選手はほんとうに『あばたもエクボ』と思ったのかどうか。