壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

占(うら) 木内 昇

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占(うら) 木内 昇

2020年1月 新潮社 1800円

 

十年以上前に読んだ、この作者の『茗荷谷の猫』

は印象深かった。同じ連作短編だが、雰囲気はだいぶ違う。女たちの心情がより明確に描かれていてとてもいい。

 

大正の末期頃なのだろうか、職業婦人も専業主婦も家事手伝いの女性も、恋愛や家庭の悩みを抱える女たちの心の隙間を埋めるのは、いつの時代も「占い」。世間や家庭に縛られて自分自身を見失っている女たちの悩みは時代こそちがっても、いつも共通しているものなんでしょう。いろんな占いに出会って悩み迷いながらも、結局は自分を正面から見つめていく様が7つの短編に収められています。

 

短編どうしがそこここでゆるくつながっていて、いつも思う「連作短編の魔力だなあ~」。

 

桐子は翻訳家。独りできちんと暮らしている知的な女性だが、同居し始めた年下男の本心が知りたくて『時追町のトい家』を訪れ、占いにのめり込んでしまう。

 

大叔母を頼って町に出てきた目立たない風貌の杣子はカフェのレジ係。実は人間観察の達人で、大叔母の家で女たちの相談を引き受ける羽目になり、『山伏村の千里眼』と呼ばれる。

 

女学校もやめてしまって、自分には何の取り柄もないと思う知枝。以前英語を習っていた桐子の仏壇の祖父の写真に恋して、『頓田町の聞奇館』の口寄せを訪れた。

 

政子は専業主婦。姑との仲もよく、夫は真面目、子供は聞き分けがいい。あまりに普通で平凡な家庭に悩み、他の家のランク付けをはじめる『深山町の双六堂』。

 

綾子は優秀な薬剤師として働いていたが、職場の男たちの無理解にうんざりして、実家の大工の棟梁を継いだ。でも男社会で自分を出すのは一苦労。そのストレスを『宵町祠の喰い師』に聞いてもらった。

 

ホラーテイストの切ない話『鷺行町の朝生屋』。子供ができない恵子はいろいろ言われるのが煩わしくて、親類の葬儀にも出ない。ある時、四歳の「ゆうた」が遊びに来た。

 

男と「両想い」になった佐代は、男にかつて婚約者がいたという噂を聞いて、疑いと不安を隠しきれない。『北聖町の読心術』で男の心を読んてもらおうとするのだが…。最後に杣子さんと出会って…。