壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

建築する動物たち マイク・ハンセル

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建築する動物たち マイク・ハンセル
ビーバーの水上邸宅からシロアリの超高層ビルまで
長野敬+赤松真紀訳 青土社 2009年 2520円


更新が一週間ぶりになってしまいました。返却期限の迫った本が何冊も溜まっているのに、春になったせいか、あれこれ気が散ることが多くて、まとまった読書ができませんでした。このところの暖かさと強い風で、眠い、庭の雑草が繁茂、花の植え替え、花粉症発症、テレビが見えない、パソコンが変、なんだか落ち込む、市役所に行く、電話や手紙の返事などなど・・・無人島に行ったらたくさん本が読めるんでしょうね。

思い切って未読本も挫折本も全部、図書館に返して改めて仕切りなおし、充実した読書ライフを目指したいと思います。
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乾燥地帯にある世界最大級のシロアリの塚(上の写真ウィキペディアより)は、高さが六メートルにも及び、人間社会の建造物に置き換えれば、高さ千メートル以上の超高層ビルに相当するかもしれないという。数百万匹のシロアリたちは設計図も命令系統もないままに、内部に効率の良い換気システムを備え、女王の居室、育児室にキノコ畑などが完備した巨大都市のような複雑な構造物を、何年もかかって作り上げる。

彼らはどうやってこのようなものを作り上げるのだろうか。巨大都市の「青写真」が小さな脳しか持たないシロアリの個体に備わっているということは事実上あり得ない。彼らを建築行動に駆り立てるものは、個体に備わった単純な行動パターンであるだろう。フェロモンのような化学刺激、既存の建造物から受ける刺激などの低次の指示によって、高次に組織化した構造物が創出されるという。

『建築する動物たち』が作り上げる構築物は『延長された表現型』として自然選択の対象となるから、生物体そのものの進化とともに、生物体が作り上げた巣や装置もまた淘汰圧にさらされていくのはたしかだ。こういった動物たちの建築行動と、我々人間の建築行動は別物である。けれども、雄のニワシドリが作るバワー(雌を迎えるためのあずまや)は延長された性選択であり、雌のニワシドリがバワーに美しさを感じる(つまり脳で快楽を感じる、脳の特定領域が活性化されるから検証可能なはず)ことは、人間の芸術活動や美的感覚の原点かもしれないという。

切り口が面白い動物行動学の本で、動物たちのおりなす「自然の驚異」は小難しい議論にも優るものです。