よくできた警察小説で、とにかく面白くて途中で読むのをやめられませんでした。いわゆる刑事物ではなくて、事務方の警察官が主人公になっているところは、ちょっと、横山秀夫の作品に似ていますね。
警察庁長官官房総務課長の竜崎伸也はバリバリのエリート警察官僚で、鼻持ちならないほどのエリート意識の持ち主。家庭をかえりみず子どもたちともほとんど接点のない毎日で、浪人中の息子邦彦には東大入学を強い、娘美紀には上司のむすことの縁談を薦めるとんでもないオヤジだ!と反感をいだきましたョ。
ところがこの叙述はいわばミスリードで、その後じわじわと竜崎の正体が明らかになっていきます。妻冴子からははっきり唐変木といわれ、警察庁の中ですら変人で周囲から浮いた存在だったのです。これは、彼が警察の旧弊な体質とは相容れない合理的精神の持ち主であるせいです。原理原則を貫き通す過激な原理主義者?で強引に持論を押し通し、煙たがられているようです。
出所した元少年犯が立て続けに三人殺されるという事件が起き、警察小説にはお決まりの隠蔽捜査が行われようとします。竜崎個人にもとんでもない事件が持ち上がりました。息子邦彦のこの事件をきっかけに、竜崎の人間性がさらに明らかになっていきます。この二つの不祥事を竜崎がどう処理するのか。期待が高まります。