壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

ベルリン1945

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ベルリン1945 クラウス・コルドン
酒寄進一訳 理論社 2006年 2500円

前作「ベルリン1933」の最後で、生まれたばかりのエンネをのこして、両親のヘレとユッタは逮捕されました。「転換期三部作」最終巻の舞台は1945年、第二次大戦末期のベルリンです。心配した通り、ゲープハルト一家もずいぶん変わりました。この巻は、前の二作に比べひどく重く苦しいものになりました。

もうすぐ12歳になるエンネは最近までルディーとマリーを両親だとばかり思っていました。でも今は祖父母だと言う事を知っています。ゲープハルト一家や近所の人がエンネに隠しているもっとたくさんの秘密を、私たち読者はエンネと一緒に知る事になります。

エンネの父さんと母さんは? ハンスおじさんは? ミーツェは? もう一人おばさんがいたの? 他の子供と違って、どうしてエンネだけ疎開しないの? ナチが絶対的な権力を握るベルリンでは、ゲープハルト一家も堅く口を閉ざすしかありませんでした。

昼も夜もなく空襲の続くベルリンを逃げ惑い、ソ連軍の侵攻によってさらに怖い思いをするエンネたち。戦争がやっと終わって平和が来ると皆が信じた日に、モスクワから戻り、「スターリン帝国」を経験したハイナーから話を聞いたヘレは、言います。
『ドイツは自力でナチを倒せなかった報いをいつか受けることになる。』

題名も内容も地味ですが、素晴らしい物語でした。この現代ドイツの大河小説は1945年で幕を閉じます。著者コルドンのなかには、ベルリンの壁崩壊までの、歴史に翻弄され続けるゲープハルト一家の物語があるようです。でも1943年東ベルリンに生まれ育った著者は、1945年以後の話を、完全に虚構の物語の上に描く事ができなかったのでしょう。

あとがきによれば、1940~60年代の、東ベルリンの市民の様子を描いた半自伝的小説「Krokodil im Nacken」(うなじにクロコダイル)があるそうです。本書の訳者酒寄進一さんに翻訳していただきたいと思います。題名の仮訳が挙がっているから、もう翻訳がすすんでいるのかなあ。是非読みたい本です。