戦時中のミッションスクール。図書館の本にまぎれて、ひっそりと置かれた美しいノート。蔓薔薇模様の囲みの中には、タイトルだけが記されている。「倒立する塔の殺人」
表紙折り返しの説明の図書館という言葉に反応したのかもしれません。
表紙折り返しの説明の図書館という言葉に反応したのかもしれません。
著者の名さえ知らず、館(やかた)物のミステリだろうと見当をつけ、表紙の絵から今どきの女の子が読むラノベかなとも思い読み始めましたが、完全に見当はずれ。予想は次々と裏切られました。冒頭のシーンは、通っていた高等女学校の校舎が空襲で全焼し、その焼け跡の瓦礫を畚(もっこ)で運ぶ少女たちだったのです。
さらに、その少女だけの集団生活のなんともstoicなようなeroticというか、独特の耽美で妙に衒学的な雰囲気は、ずいぶんと古い時代のものです。描写のあまりの緻密さに、つい巻末の作者紹介を読んだところ1930年生まれとの事。納得いたしました。
若い頃だったら苦手な、絶対に読まなかったようなこういう雰囲気の小説も、年取った今は何でもOKで、最後まで読みました。 で、皆川博子という作者は、なんて巧いんでしょうか! 女の子たちのキャラも立っていますし、章立ての仕掛けも凝っています。
図書館で見つかった美しいノートと、そこに手書きで書かれた「倒立する塔の殺人」という作中作。その小説を書き継いで行く少女たち。書かれた架空の死と、現実に起きた死が絡み合う。「倒立」という言葉が象徴するのは、彼女たちの幻想的な世界と対照的な終戦という現実かもしれません。
皆川博子さんという書き手を今まで知らなかったなんて。たくさんの著作があり、独特の世界があるようです。読んだ事はないにしても、どこかで聞いた名前なのに忘れているのでしょう。もしかしたら、つい最近読んだ恩田さんの「小説以外」で読んだかもしれません。この少女たちの世界がほんの少しだけ恩田ワールドを連想させます。でも全く覚えていません。『忘れたことを忘れることができるしあわせ』って誰か言っていませんでしたっけ?。
この本は面白いです、(好き嫌いは別にして)。皆川さんの本、他のも読んでみようと思い、・・そっち(ってどっち?)へ行っていいのか? 目指すところがちがうような・・いやもともと目的地はないし・・う~ん・・