壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

ベルリン1933

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ベルリン1933 クラウス・コルドン
酒寄進一訳 理論社 2006年 2500円

「ベルリン1919」の続編。1943年東ベルリン生まれの作家コルドンの「転換期三部作」の二作目です。政治的な混乱に乗じたナチの台頭を舞台に、ヘレ少年の弟ハンスの日常が描かれています。

物語は1932年の夏から始まります。あの時、生後10ヶ月だった"かわいいハンスぼうや”も、もうすぐ15歳になり工場の臨時倉庫係として働いています。優秀な体操選手だということでやっと就職ができたハンスは運が良かったのです。世界恐慌の中、敗戦国ドイツの経済はどん底で、貧しいアッカー通りにも若い失業者が溢れています。

コルドンは、この時期に何故ナチが台頭してきたのか、その理由を若い読者に考えて欲しいのでしょう。1919年では、敗戦直後の厳しい暮らしの中に、新しい国を作ろうという希望も見えていたのですが、1933年には世界経済の悪化とともに、社会民主党共産党はいがみ合いを繰り返すのみで、政治の混乱に乗じてナチ党がそっと選挙の票を伸ばしていたのです。、

労働者のゲープハルト一家には、ハンスの9歳になる末弟ムルケルが生まれていました。兄ヘレは熱心な共産党員になってユッタと結婚し、エンネが生まれました。失業した母マリーはユッタを手伝って時々赤ん坊の面倒を見に行きます。

姉マルタはナチス突撃隊のギュンターと結婚する事になりました。大戦で右腕を失った父親ルディーには思うような仕事がありません。かつてスパルタクス団に所属していたルディーは、意見の行き違いから共産党を離れていました。

ハンスは工場で一才年上のミーツェと知り合いました。ミーツェの戦死した父親はユダヤ人で、今は叔父夫婦のところで暮らしています。1933年一月にヒットラーが首相となり、町は不穏な空気に包まれ始めました。ヘレの旧友ハイナーを助けるため、ハンスは抵抗運動に巻き込まれていきます。 

1933年2月27日、ドイツの国会議事堂が炎上した日に、ゲープハルト一家にもナチの手が迫ってきました。幼いエンネはどんな風に育つのでしょうか。ハンスとミーツェは幸せになれるのでしょうか。

ゲープハルト一家の暮らしぶりが克明に描かれていて、古くからの知人のような気さえしてきました。みんなの運命がとても気になります。あの戦争を生き延びたのでしょうか。第三部「ベルリン1945」を続けて読みます。