壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

言の葉の樹

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言の葉の樹 アーシュラ・K・ル=グィン
小尾芙佐訳 ハヤカワ文庫SF 2002年 700円

ハイニッシュ・ユニバースの長編(最近刊)です。

遥かな昔、高度の文明を持った惑星ハインの人々は、銀河宇宙に進出しさまざまな惑星に植民地を形成しました。しかし、惑星ハインの文明は衰退し、孤立した植民地はそれぞれに独自の文明を発達させました。長い時間を経て再興したハインは失われた植民地惑星を探索し、再発見していきます。

異なる文化をもった異星人同士が出会い、対立する価値観の間で葛藤する人々の物語でもあります。地球出身の観察官サティは、大宇宙連合(エクーメン)から惑星アカに派遣されます。独裁企業体(コーポレーション)が圧制を敷き、エクーメン化を標榜して伝統文化がことごとく破壊され、古い象形文字で書かれたあらゆる本が焚書にされています。、

都市では監視下に置かれアカの伝統文化に触れる事のできないサティは、辺境の地に過去の文化を探しに出かけますが、政府から派遣された監視官ヤラが行く先々についてきます。サティは幼い頃に地球で一神教教条主義者(ユニスト)の振るう恐怖を体験している。一方ヤラは幼い頃に伝統的な文化を守る祖父母に育てられ、後に上級官僚となっているのです。

サティとヤラの交流を通して、対立する価値観の間で葛藤する人々の物語が語られています。アカの自然を描くル=グィンの表現は詩的ですが、背景には現代社会の政治的・宗教的・文化的な寓意がたくさん詰め込まれています。「ロカノンの世界」とはずいぶん違う雰囲気ですが、三十年もたっているのだから当たり前ですね。