壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

記憶は嘘をつく

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記憶は嘘をつく ジョン・コートル
石山 鈴子訳 講談社 1997年 

記憶や記憶喪失は、小説や映像作品の大きなテーマです。記憶に関する面白い本を探していましたが、大半は記憶術に関する本ですし、脳科学関連もちょっと違う。その中で見つけたのがこの本です。10年も前の本ですが、とても面白く読めました。

原題は「WHITE GLOVES: How we create ourselves through memory」。「我々は如何にして記憶によって自分自身を創造するか」が、著者自身の体験「白手袋」を交えて解説されています。自伝的記憶(エピソード記憶の一種)というのは「人間の一生の話の中に登場する人物、場所、モノ、できごと、感情に関する記憶」のこと。この自伝的記憶には、フィクションが入り込みやすいという話です。

記憶は一貫した意味を持つように再構成され、自己のアイデンティティーを作り上げる記憶がどのように変形していくのか、多くのインタヴューからのエピソードで解説され、定義を必要とするような心理学用語がないのでわかりやすい。個人的記憶は家族や一族の集団的記憶となり、昇華されて伝説や神話のようになっていく過程は興味深い。著者自身の個人的な記憶や体験(祖父と、アルツハイマーの父との係わり合い)はちょっと感動的でした。

記憶が嘘をつくこと、記憶に剽窃や改竄があることは、私自身充分に思い当たるふしがあり、また年とともに記憶は薄れ強く変形していくようです。年をとって自伝や回想録を書き、また自分史を自費出版するのは「人生の総ざらい」ともいうべき現象だそうです。

自伝的記憶は心の神話であるという記述から、北杜夫の「幽霊」を思い出してしまいました。高校生の頃に繰り返し読んでいた本。冒頭の一節は暗記しています・・・・あらら、だいぶ忘れています。