壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

悪い時

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悪い時 他9編 ガブリエル・ガルシア=マルケス
高見英一 他訳 新潮社 ガルシア=マルケス全小説 2007年 2800円

百年の孤独」以前に書かれた短編と、それらの短編で描かれる断片的なエピソードがはめこまれた長編「悪い時」。同じエピソードが繰り返し語られる事によって、町という共同体と登場人物同士の係わり合いが明らかになってはきますが、町全体のイメージはつかみがたいものがありました。

『大佐に手紙は来ない』軍人恩給を15年も待ち続け、飢え死にするばかりなのに、どうする事もできない。
『火曜日の昼寝』疲れはてた母娘は村の駅で降りて、墓地に向かった。
『最近のある日』歯痛に苦しむ町長と歯科医の間には確執があるらしい。
『この村に泥棒はいない』玉突きの玉を盗んでしまい、町の皆が玉突きできない事に悩む泥棒。
『バルタサルの素敵な午後』素晴らしい鳥籠を作った職人は、それだけで幸せ。
『失われた時の海』海から漂う薔薇の香りは、かなえられない希望なのか。
『モンティエルの未亡人』阿漕な商売で儲けた夫が亡くなって、商売は立ち行かず、子供たちは葬儀にも帰ってこない。
『造花のバラ』盲目の祖母は、孫娘の言動をお見通し。
『ママ・グランデの葬儀』90年もマコンドを支配したママ・グランデの葬儀は壮大で時間を超越している。
『悪い時』悪意のあるビラが撒かれ、戒厳令まで敷かれるが、住民は出て行ってしまう。徒労感が残る。

百年の孤独」を読んだのは、30年も前の、ラテンアメリカ文学が流行っていた頃です。流行りものというだけで読んだので、ひどく混乱したイメージしか持てなくて、それ以来ラテンアメリカ文学を避けていたような気がします。ガルシア=マルケスの短編はなかなかいいですね。改めて「百年の孤独」を読めば理解が深まるような気がしました。

訳者も訳出の時期もそれぞれ異なる短編の再掲のため、人名などの表記が統一されていない事が気になりました。