壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

押絵と旅する男 江戸川乱歩

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押絵と旅する男 江戸川乱歩
ポプラ社 百年小説より 2008年 6930円

「百年小説」の短編をあちこち拾い読みしています。乱歩の有名な短編も、かなり昔に読み、細部は失念していましたが強烈な印象が残っていました。乱歩の少年探偵団を卒業して次に読むのはこの作品あたりが無難かしら^^。

 夢の中なのか、魚津の蜃気楼を見物した列車の二等車で、額の絵を列車のガラスに向けて立てかけている不思議な男を見かけた。押絵の中で小さな人物が二人生きていた。そのうちの一人は兄だという男は、絵の由来を語り始める。

この作品ではじめて知った、浅草十二階凌雲閣のなんとモダンなこと。そして双眼鏡を逆に覗くときには、いつも禁忌を侵すような気持ちになります。

冒頭の段落の最後は、『・・・これは私が、不可思議な大気のレンズ仕掛けを通して、一刹那、この世の視野のそとにある別の世界の一隅を、ふと隙見したのであったかもしれない。』。蜃気楼見物のあとでなら、語り手と同様に怪しげな男にわけもなく惹かれてしまうかもしれません。