壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

ヴォイス 西のはての年代記Ⅱ

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ヴォイス 西のはての年代記Ⅱ アーシュラ・K・ル グウィン
谷垣 暁美訳 河出書房新社 2007年 1600円

「ギフト」に続く物語です。オレック・カスプロは語り人となって妻グライ・バーレと共に、遥か南の地アンサルを訪れます。そこはかつて商業都市として栄えたけれど、現在は砂漠の民オルド人の支配下にある町です。文字の使用が禁じられ、本を持つことすら許されていません。

アンサルの名家の出ではあるものの、侵略の落とし子でもある少女メマーは、一族の長であるサルター・ガルヴァから文字を教わりました。古くからの広壮な図書館は破壊されてしまいましたが、メマーの住む館には秘密の部屋があり、そこには多数の本が密かにしまわれていました。

唯一神アッスを奉じるオルド人たちは本を悪とし、火を神聖なものと考えるため焚書はせずに、本を水に沈めます。オルド人の王と神官の間には確執があります。多くの神々を信じているアンサル市民は、オルド人に奴隷として支配される前には共和制を布いて戦いを好みませんでした。

物語ではなく言葉で説明的に語る部分もあって、ルグィンは言いたい事がたくさんあるのでしょう。高齢の作者の焦りを少しばかり感じました。でもまあ物語の寓意を深読みせずに、物語自身を楽しみましょう。貧しいけれど聖なる喜びに満ちたアンサルの日常生活、メマーの持っているギフトは何か、アンサルの人々は自由を手に入れることができるのかと。

「ギフト」を読み返したくなりました。そして第三部「Powers」が待ち遠しい。