まずは、佐藤亜紀氏の翻訳ということで読み始めました。語句の選択が佐藤さん独特のものなのに、“記述の運動”のリズムが佐藤さんのものではないので、初めちょっと戸惑いました。でもすぐに作品の中に引きずり込まれるようでした。幻想的な美しい描写と冷静な乾いた語り口に混ざる、意味不明なフレーズ。
荒涼とした館で、ガブリエル・ゴドキンは、記憶の欠片を集めて少年時代、ここバーチウッドで過ごした日々を語りますが、悪巫山戯と諍い好きな一族の中での暮しは狂気に満ちているようでした。爆死するまでバーチウッドの館を支配した祖母、アルコールに浸る父、精神を病んだ母、息子マイケルを連れ帰ったマーサ叔母たちの関係は、ひどく理解しにくく、謎に包まれています。
実在するかさえ定かでない生き別れの双子の妹を探しに、旅のサーカス団に同行するのですが、そこで出会ったのは19世紀にアイルランドを襲ったジャガイモ飢饉でした。イギリスの植民地政策によって農民たちは逃げ道のない身分に縛られて餓死するまでに飢えていました。
旅の最後にたどり着いたのは、バーチウッドでした。そして最後にかつて一緒に暮した家族の秘密が、最後の最後でやっと明らかになります。佐藤さんのお薦めに従い、初めから読み返してみました。・・・・なるほど、そういうことですか。謎の部分は納得がいきました。でも、語り手がサーカス団と旅したところはどこだったのか、物語全体の輪郭は必ずしも確定できません。また、アイルランドの問題、言葉の問題など、微妙なニュアンスは残念ながら理解できませんでした。