壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

ユルシュール・ミルエ

イメージ 1

ユルシュール・ミルエ   オノレ・ド・バルザック
バルザック幻想・怪奇小説全集 4
加藤尚宏 訳 水声社 2007年 6月

「バルザックと中国の小さなお針子」で小裁縫の”運命”を変えた小説です。バルザックは、大昔に二、三の作品を読んだだけです。「谷間の百合」と「ウジェニー・グランデ」は文学全集に入っていたのだと思います。「ユルシュール・ミルエ」は名前も聞いた事がありませんでした。最近出版されたバルザックの全集の中に収録されています。

「人間喜劇」の百篇近い作品群にも圧倒されますが、作品のなかで時代や人物や状況を、ひたすら語り続けるバルザックの筆致にも圧倒されてしまいました。何でもかんでも、書いて書いて書き尽くしているのです。「ユルシュール・ミルエ」は二部構成ですが、一部の終わりに、「これで導入部が終了した」とあって、ちょっとうんざりしましたが、面白くないわけではありません。

以下、人物紹介を試みたら、あらすじのようになってしまいました。

老ミノレ博士: ヌムールの出身で、帝政時代にはナポレオンの侍医として地位と財産を築いた。王政復古とともにパリを引き払って、赤ん坊のユルシュールを伴ってヌムールに移り住んだ。彼は唯物論者であり、無神論者(理神論者)であったが、1829年にたまたま立ち会った透視実験で、すっかり霊的なものを信じるようになった。以後はカトリックに入信しユルシュールと共に教会に通い始めた。ミノレ博士には直系の親族がなく、ユルシュールとは血縁関係がないため、親類縁者は彼の遺産を狙っていた。愛する名付け子ユルシュールに確実に財産を残すために、死の床で遺言書の存在を彼女に伝えるが、甥のミノレ=ルヴロに盗み聞きされ、思いを果たすことなく息を引き取ってしまった。享年八十八歳。

ユルシュール・ミルエ: 老ミノレ博士の義父の私生児として生まれたが、すぐに孤児となって老ミノレに引き取られる。老ミノレは妻に先立たれ、実子を赤ん坊の時に次々と失っていたため、ユルシュールの名付け親として彼女をいつくしんで育てていた。老ミノレの親友たちにもかわいがられて育ち、知性と教養を備え慈愛に満ちた美しい少女になった。隣家に住む名門貴族ポルタンデュエル子爵の一人息子サヴィニアンに恋し、十七歳の時、代父である老ミノレと死別する。彼の死後財産を奪われ、苦しい生活を送る間にも、サヴィニアンへの愛をつらぬいた。最後には、サヴィニアンの母にも受けいれられ、結婚して幸せに暮らした。

サヴィニアン・ポルタンデュエル: 老ミノレ博士の家の隣に住む若い貴族。パリに出て華やかな社交界に幻惑され、莫大な債務を返済できず、監獄に収監されてしまった。母である子爵夫人にはそれを返すだけの財力がなく、周りの薦めにより、土地を担保にして老ミノレから金を借りた。ミノレの奔走によって監獄から出られた後は、心を入れ替えて誠実に努力する道を選んだ。ユルシュールに好意を抱いたが、名門意識を持つ母親の反対に会い、結婚できないでいる間に老ミノレが亡くなり、事態はさらに悪化した。最後には、けなげな姿のユルシュールが彼の母の心を和らげ、ユルシュールと幸せな結婚をした。

ミノレ=ルヴロ:叔父ミノレの莫大な財産に目がくらみ、叔父の死の床での遺言を盗み聞いて、隠してあった証券を奪い、叔父の家も手に入れ、ユルシュールを追い出した。さらに罪の意識からグーピを使って、ユルシュールに執拗な嫌がらせを繰り返させた。そんな時、ユルシュールの夢枕に老ミノレ博士が立って、甥のミノレ=ルヴロの悪事を告げた。さらに、老ミノレの親友ボングラン治安判事とシャブロン司祭にも疑われ、さらに盗んだ証券がはさんであった本に証拠が残っていたために、奪った財産をユルシュールに返すことになった。しかし、息子デジレが罪の報いのように事故で亡くなり、妻ゼリーが発狂した。最後には敬虔な信心家になった。

当時の社会情勢や人間心理について、バルザックはとうとうと述べている部分がとても多いのですが、物語の部分だけを取り上げれば、典型的なメロドラマです。時代を移し変えれば、昼のTVメロドラマの脚本になりそうな感じです。ダイ・シージエの小説に出てくる、「女性の美しさは、値のつけようのない宝」だと知った小裁縫ちゃんの心を動かしたのは、どんなところだったのでしょうか。