壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

憑かれた鏡 エドワード・ゴーリー編

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憑かれた鏡 エドワード・ゴーリー
柴田元幸小山太一、宮本朋子訳 河出書房新社 2006年 1800円

正直書評金斧賞の「エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談」です。ホラーや怪奇が苦手なはずなのに、読みたくなってしまいました。19世紀終わりから20世紀の初めまでの、イギリスの怪奇短編12編をゴーリーのイラスト付きで楽しみました。ディケンズ、スティーヴンスン、ジェイコブスといった有名どころは既読でしたが、こういうラインナップの中で読むとまた別の味わいがあります。

空家/A・ブラックウッド(1869-1951)
誰も長くすむことの出来ない近所の空家を、伯母と二人で真夜中に探検するはめになった・・・
♡そんなに怖いなら昼間に行けばいいのにと思うのですが、この二人は意地でも全部の部屋を見るらしい。お化け屋敷のアトラクションが人気なのは、こういうタイプの人たちがいるからなんだろうなあ。

八月の炎暑/W・F・ハーヴィ(1885-1937)
画家が何気なく書いた肖像画にそっくりな人物に出会った。さらなる偶然の一致は・・・
♡いくつかの結末が考えられないわけでもないけれど、やっぱり、それが結末ですよね。ではなぜ偶然の一致なのかというと、これはまったく説明が出来ない。

信号手/C・ディケンズ(1812-1870)
トンネルの終わりの切通しにある信号所で働く信号手が見たものとは・・・
♡かなり昔に読んだことがあるので、もしかしたら岡本綺堂訳かもしれません。これは柴田元幸訳。

豪州からの客/L・P・ハートリー(1895-1972)
ロンドンの古いホテルに宿泊した客と、もうひとりの・・・
「ポドロ島」のハートリーの短編はこの中では異色。nursery rhymeになぞらえた筋運びは、ハートリーらしく二度読まないとよくわからない。

十三本目の木/R・H・モールデン(1879-1951)
友人の大きな邸に招かれ、庭に幻影を見た。そこの庭の因縁を調べ始めると・・
♡庭の大きな水盤と周りのイチイの木が、美しくてかつおそろしい風景を描き出しています。

死体泥棒/R・L・スティーヴンスン(1850-1894)
経歴不詳のフェティーズ老人が、たまたま出合った立派な医者を「マクファーレン」と呼び止めた。二人の過去は・・
♡ ジキル博士の家のような解剖室の二階に住む青年の話は、この時代には実話だったんじゃないかしら。

大理石の躯/E・ネズビット(1858-1924)
田舎住まいの画家と作家の夫婦。近くの教会にある石像が諸聖徒日の前の晩に歩き出すという噂が・・
♡そんな時に一人で出かけたらダメに決まってるでしょ。わすれていたなんて、もう!

判事の家/B・ストーカー(1847-1912)
一人きりで数学の勉強に打ち込もうと、悪評高かった判事の家を借りたケンブリッジの学生は・・・
♡これも、絶対に怖いことが起きるに決まっているのに、どうして分らないのかしら!という怒り(笑)さえ覚えます。

亡霊の影/T・フッド(1835-1874)
ティーと婚約していた海軍士官のジョージが北極探検に志願した。ジョージの友人でレティーに横恋慕したヴィンセントと一緒に・・・
♡当然おきるであろう事件なんですがね。ジョージの肖像画が主人公というところ。

猿の手/W・W・ジェイコブス(1863-1943)
あまりにも有名な三つの願い。老父母と息子三人の家を訪ねた昔馴染みが持っていたのは、魔力を持つ猿の手でした。
♡あの恐ろしい「ペット・セマタリー」であらわれるものを見ないですんでよかったわ。

夢の女/W・コリンズ(1824-1889)
馬丁のアイザック・スキャチャードが、夢で女に殺されそうになった・・
♡その女に現実に出会うけれども、彼はその女であることに気が付かない。なぜ気が付かないのよ~

古代文字の秘法/M・R・ジェイムズ(1862-1936)
錬金術師を名乗るカーズウェルが学会に送りつけたあやしげな論文は、却下された。査読をしたダニングの身の回りで・・・
♡古代文字の秘法の部分はともかく、あとは合理的解釈の出来る話で、終わりもめでたしめでたし。


どれも古めかしい怪異譚です。ウエットな日本の怪談とは違い、英国のものはドライです。人間関係のドロドロが少ないし、水にまつわる怪奇もないですね。

私の『怖いセンサー』の感度を最も低くして読んだので、あまり怖くありませんでした。短編では怖くないように身構えて読めるんですが、長編は物語に入り込んでしまってダメかもしれません。

若い頃は、怖いもの見たさでついホラーを読んでしまい、自分でも青い顔になったのが分るくらい怖がりでした。考えてみれば「母は強し」というのは本当で、子供が生まれてからは幽霊がだいぶ怖くなくなりましたが、人間の悪意が幼い子にむけられるタイプの話は読めなくなりました。今、年を取って改めてホラーに目覚めたかも。でも、夜一人で読む気にはなれません。