壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

乾隆帝の幻玉 劉一達

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乾隆帝の幻玉 劉一達
老北京骨董異聞
多田麻美訳 中央公論社 2010年 3360円

久しぶりに読み応えのあるエンターテインメント小説でした。中国では連続テレビドラマ化されたそうで、それもうなずけます。

中華民国期の北京は清朝が滅亡し諸外国が侵入していた混乱の時代、度重なる政変が続いていたにしても戦火さえなければ、庶民はいつもたくましい。困窮した貴族たちが売り払った清朝皇帝の至宝が市場に流れ、それをめぐる老北京(昔ながらの北京っ子)たちの息づかいが感じられる面白い物語です。

計算高くて謀りごとにたけているしたたかな骨董商の金や宋。誠実ではあるが融通の聴かない玉器職人の杜。その弟子で、純粋で無邪気な家琦。任侠心に富んだ水運びの若者。人間味ゆたかな人物が描かれ、当時の北京の胡同など街の様子や、庶民の風習をうかがい知ることができます。さらに玉器や骨董にまつわる薀蓄の数々が、バルザック風の『語り口』で語られていて、なんとも、生き生きとした小説を堪能しました。

こういう古い北京の文化は消えつつあるのでしょうが、北京で垣間見た人々のエネルギーは変らないもののようです。