パイドラーあるいは絶望
アキレウスあるいは嘘偽
パトロクロスあるいは運命
アンティゴネーあるいは撰択
レナあるいは秘密
マグダラのマリアあるいは救い
パイドーンあるいは眩暈
クリュタイムネーストラーあるいは罪
サッポーあるいは自殺
アキレウスあるいは嘘偽
パトロクロスあるいは運命
アンティゴネーあるいは撰択
レナあるいは秘密
マグダラのマリアあるいは救い
パイドーンあるいは眩暈
クリュタイムネーストラーあるいは罪
サッポーあるいは自殺
単行本の方には散文詩的短編集という副題がついていました。神話などに題材をとった九つの短編の間に、ユルスナール自身の告白めいた箴言が挟み込まれています。神話の人物は名前も聞いた事がないものもあって、訳者の多田さんの付記で多少は救われましたが、古典の知識がない私には、イメージをふくらませるのがなかなか困難でした。
ユルスナールは「神話や古典は物語の下塗りにしか過ぎず、人物や場所の恣意的な置き換えは、時間の概念を気化させるものだ」と解説しています。つまり、古代にも現代にも通じる普遍的なものを表しているということでしょう。例えば「パイドラーあるいは絶望」では、エウリピデスだけでなくラシーヌも題材にしているというのですが、地下鉄の線路云々という言葉が突然出てきて混乱しました。どうも時空を超えた置き換えのようで、著者の自由に湧き上がるイメージを綴っているみたいです。
比喩の対象が(私には)よく分からないメタファーに満ち、撞着語法をふんだんに用いているので、何かボルヘス的なものを連想しました。、引用なのか恣意的な置き換えなのかなどという細部にこだわると気になって仕方がないので、詩を読むように感覚的に読むしかありませんでした。葛藤や苦悩、行き場のない追いつめられた禁断の愛の形が濃厚に伝わってくるので、やはりユスルナールでした。