壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

青の物語

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青の物語 マルグリット・ユルスナール
ユルスナールセレクション4 より
吉田加南子 訳 白水社 2001年 3400円

作者の死後に出版された唯一のフィクションだそうで、短編集としてのまとまりはあまりありません。

「青の物語」
幻想的な詩のような一編。サファイアを求めて東方へと地中海を渡ったヨーロッパの商人たちの、「千一夜」風の冒険譚でもあるのですが、筋書きよりも湧き出る青という色のイメージが美しく印象的です。空、海、山、水、石、肌、髪、宝石、煙、影とすべての風景と事物の中から、青の成分を抽出し純化して、再び物語を青く染め上げていくように描かれています。

この物語には出てこなかった、浅葱や縹色といった典雅な和名をもつ青も思いましたが、私が一番好きな青はラピスラズリの深い色です。この宝石を砕いて作ったウルトラマリンという顔料はフェルメール・ブルーとして有名です。ユルスナールには「赤の物語」「白の物語」の構想もあったとか、読みたかったのに残念です。「東方綺譚」に入れてもいいような逸品。

「初めての夜」
ユルスナールの父親が書いた短篇を、ユルスナールが手を入れて発表したものだといいます。新婚旅行に向かう男の意識の流れそのままを綴ったもので、「アレクシス」のように読みにくく、こういうのは苦手ですw

「呪い」
フランスの田舎に残る土俗的な風習。貧困ゆえの無理な労働で不治の病を得たアマンドの病の原因を、呪いであると信ずる近所の人々が集まって、アマンドの着衣を沸騰する鍋で煮続けて、呪詛の主を探す場面は少し怖い。アマンドに対して羨望の念を持っていたアルジェナールは、思わず声をあげてしまうのです。魔女とされたアルジェナール自身の変化、周囲との関係が急に変わっていく様子が巧みに描かれています。