壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

アレクシス/とどめの一撃/夢の貨幣

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アレクシス/とどめの一撃/夢の貨幣 マルグリット・ユルスナール
ユルスナールセレクション 3 
岩崎 力 訳 白水社

「アレクシス」
“自らの性向に忠実に生きるため妻に宛てて別れる理由を書き送る書簡体の処女作”なのだけれども、とにかく分かりにくくて、ユルスナール自身の解説(序)で話の要点を読まなければ、何のことを言っているのか理解できません。一語一語ゆっくり読めば少しは分かるのですけれども、目で読む速度と内容を理解する速度があまりに違いすぎて、なかなか付いていけません。

プルーストを読んでいるみたいに、流れるような美しい文章なのですが、読む端から理解をすり抜けてしまうのです。要するにホモセクシュアルであることをカミングアウトしているらしいのですが、そんなみもふたもない言い方で説明するのは気がひけるくらいに、あくまでも美しく婉曲に表現されています。今回は、一応字面は読みましたが理解には至らず、かといって次回があるかどうか不明です。

「とどめの一撃」
例によって、こういう風に読みなさい、という著者自身による解説が冒頭にあります。素朴な読者は読み方を間違えるといけないということまで書いてあるので、ここはひとつ素直になりましょう。登場人物に内在する精神の高貴さ(利害打算の完全な不在)が、ユルスナールにこの物語を書かせた理由だそうです。ユルスナールの求める精神の高貴さはたしかにその文章から伝わってきますが、人間の情念や心理の複雑さも、この物語を解く鍵でしょう。

第一次世界大戦ロシア革命の動乱期、バルト海沿岸地方の混乱を背景に、貴族階級に属する3人の男女の愛と死。”のドラマです。エリックの友人コンラートと、コンラートの姉ソフィーは戦争と動乱で孤立したラトビアの村で反ボルシェビキ闘争に関わっていますが、エリックとコンラートの親密な関係、エリックとソフィーが互いに惹かれあいながらも反発しあう微妙な関係が、エリックの一人称で語られます。しかし、その語りは、すべてが真実というわけではないというユルスナール自身の指摘のごとく、屈折してゆがめられた部分があります。彼らの切羽詰った状況は、ソフィーを敵の元に去らせ、さらに悲劇的な結末に到達しました。なんともやりきれない終わり方ですが、よみごたえのあるいい作品です。

「夢の貨幣」
人々の手から手へわたる10リラ銀貨を追いながら、ファシズムへの道をたどるイタリアを同時代的に描いた作品。ある部分は叙述、別の部分は戯曲のような会話文、またモノローグのような部分もあって、さまざまな登場人物たちの様子から、その時代のローマの町の雰囲気を伝えようというのでしょうか。ローマの町も、その時代背景にも不案内な私にとっては、オムニバス風にしか感じられなくて残念!