壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

S倉迷妄通信 笙野頼子

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S倉迷妄通信 笙野頼子
集英社 2002年 1900円

笙野頼子さんをむしょうに読みたくなることがあるのですが、図書館の棚の前でめげて、これを借りました。ほんとは「金毘羅」か「だいにっぽん~」を読むつもりだったのに・・、ちょっとエネルギー不足の毎日です。以前に読んだ「三冠小説集」からそう時間がたっていないのに、新刊がたくさん出ていて驚きました。

元は捨て猫だった飼い猫の写真がいっぱい。「東京妖怪浮遊」では八王子から小平、中野へと東進し、雑司が谷で猫と同居する日でしたが、猫と楽しく暮らせる住まいを求めて、とうとう東京を東に突き抜けて千葉のS倉で一軒家を構えました。・・・なんて説明すると、エッセーか私小説のようですが、笙野さん(沢野さん)の日常は妖怪めいたものがうごめき、突発的に殺意が浮かぶ。

郊外生活の良いも悪いも取り混ぜて、新しい土地での日常の違和感、プチご近所トラブルと猫騒動。風水を私的解釈し、神話を私的創造し、ついには小説内小説を書き、S倉を住処と受け入れていく。笙野さんの描く不安感や疎外感は、読む者の持つ、隠れた感情を巧みにあぶりだしてくれます。文学論にはついていけないけれど、笙野さんの妄想は迫力とユーモアがあって楽しめます。