壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

インターセックス 帚木蓬生

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インターセックス 帚木蓬生
集英社 2008年 1900円

続けて帚木蓬生を読みました。『聖灰の暗号』は歴史サスペンスでしたが、これは医学サスペンス。

生殖と移植では「神の手を持つ名医」と評判の岸川卓也院長が率いる、贅沢な施設と高度な医療を誇るサンビーチ病院。泌尿産婦人科医の秋野翔子は岸川に請われてこの病院に勤務することになった。そこでは性同一性障害インターセックスの患者たちへの性転換手術やさまざまな治療が行われていた。翔子は「人は男女である前に人間だ」と主張し、人知れず悩み、絶望の淵にいた患者たちのために奔走する。やがて翔子は、彼女に理解を示す岸川の周辺に不可解な変死が続いていることに気づく・・・【帯解説より】

インターセックスとは、生まれたときに身体的特徴からは性別の判定がしにくい人々です。半陰陽や両性具有とよばれることもあります。生まれた子供のことを知らされた親の衝撃と戸惑い。男女どちらかの身体に近づけるように、生まれてすぐに施される形成手術。そういう[治療]することが幼い体と心をどれほど傷つけるのか、当事者のたくさんの声がその苦悩を伝えています。

医師や親が選んだ性を押し付けるのではなく、成長した本人の意思でどちらかの性を選ぶべきだという考え方を持つのが、主人公の秋野翔子です。しかし彼女は多くのインターセックスの人々と接するうちに、「人は男女である前に人間だ」と考えるようになります。男を選ぶのでもなく女を選ぶのでもない、インターセックスのままに生きるという選択肢があるのだという考えにたどり着いていきます。

ヒューマニスティックな立場で、人間の尊厳とはなにか医療の果たすべき真の役割とはなにかという、具体的で真摯な議論がなされていて、なかなか好ましいものでした。なにをもって病気と定義するのか、どこまで人間が人間を治療すべきなのかなど、いろいろ考えさせられました。その他性差医療などについても勉強になりました。

サスペンスのほうは、物語の後半にやっと登場するくらいの付け足しの感じがしましたが、実は未読の『エンブリオ』の続編のようで、サンビーチ病院長岸川卓也の裏の顔をあらかじめ知っている方が納得できるようです。