壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

聖灰の暗号(上・下) 帚木蓬生

イメージ 1

聖灰の暗号(上・下) 帚木蓬生
新潮社 2007年 各1500円

『ダヴィンチコード』の亜流だなどと勝手に思い込んで、貰った本を長いこと放置してありましたが、読んでみたらなかなか面白い!

歴史学者の須貝は、異端としてローマ教会から激しい弾圧を受けたカタリ派の歴史を調査しに南仏に向かいました。トゥルーズ市立図書館で須貝が偶然見つけたのは、700年前にドミニコ会修道士マルティによって書き記された羊皮紙の手稿でした。そこにはカタリ派の信者たちの火刑を目撃した悲しみの詩が詠まれていました。「空は青く大地は緑/それなのに私は悲しい/・・・・/生きた人が焼かれるのを見たからだ/焼かれる人の祈りを聞いたからだ」    須貝がパリの研究会でマルティの手稿について発表した直後から、身の回りに不穏なことが起こり始め、彼は手稿の続きを求めてピレネー山中に向かいます・・・。

サスペンスはあくまで穏やかに進行し、犯人一味だって最初から決まっているようなものだし、須貝とフランス人精神科医とのラブロマンスもしごく順調です。でも、やっぱり先を読まずにはいられません。というのも、一番面白いのがカタリ派がいかに徹底的に弾圧されたかを語る史実部分だからです。歴史学者としての須貝のレクチャーで歴史の流れも把握できましたし、マルティの手稿はもちろんフィクションですけれど、それにしても権威を振りかざすローマ教会と農民の素朴なカタリ派信仰の対比がわかりやすく示されていました。『オクシタニア』(佐藤賢一)は歴史オンチの私にはついていけなかったのですが・・・・

三十年前(出版当時)に読んだデヴュー作『白い夏の墓標』にちょっと似た雰囲気です。その頃最先端だった分子生物学絡みのサスペンス、そしてやはりピレネーの山の風景が素晴らしかったように覚えています。巻末のずらっと並んだフランス語の文献リストを見て、帚木蓬生さんは精神科医になる前に仏文専攻だったことを思い出しました。

物語の舞台はフランス、登場人物も主人公以外は全員外国人。その点ではいつも読んでいる翻訳物と変わりがないのだけれど、フランス語のみならずラテン語オクシタニア語にも堪能でモテモテの日本人歴史学者須貝が大活躍する話は、例えば、試合は見ないにしても、メジャーリーグで活躍する日本人選手のニュースを聞くような嬉しさがあります(笑)。