壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

わたしを離さないで

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わたしを離さないで カズオ・イシグロ
Never Let Me Go
土屋政雄 訳 早川書房 2006年 1800円

チャンネ・リーの「最後の場所で」の書評で、カズオ・イシグロの『日の名残り』以来の傑作という一文から、カズオ・イシグロの最新作を探しました。

キャシーが一人称で語り続ける物語に、最初の章からすっかり引き込まれてしまいました。流れるように続く文章は翻訳なのか疑うくらい滑らかで、しかし違和感のある言葉は確かに浮き上がって感じられます。

かすかに違和感のある言葉から、その世界がどんなに異様であるか少しずつ想像はつくのです。しかし、この物語を読み進めるのは、霧につつまれた、薄い氷に覆われた湖面を、静かに一歩ずつ歩いていくような感じがします。進むのが怖いようですが、立ち止まる事もかないません。

やっとのことで、でも一日で、読み終わったとき、切ないとか、悲しいとかそんなやわなものでなく、魂を揺さぶられるような思いで、呆然としてしまいました。内容を未読の人に語るべきではありません。でも、ミステリーの要素が主題ではありませんから、もう一度読みたくなるでしょう。でも今すぐには無理です。心が疲れてしまいました。