『トムは真夜中の庭で』がファンタジーだったので,ごく日常の子供たちの小さな出来事ばかりの短編が意外でした。でもこの歳になっても子供の時の気持ちに少しだけ戻ることができるのに,我ながらビックリしました。子供の日々の小さな出来事は,子供にとっては大事件です。8編の短編はそれぞれに子供の心の動きをそのままに,大人の言葉ではなく,子供が感じたそのままに描き出してくれます。
メイシーさんが飼っていた目の見えない老犬を奥さんが追い出した。ぼくの家では飼えない老犬を隣の「よごれディック」が保護した。大人たちのやっていることに戸惑う。
寝ているうちにハエが耳にもぐりこんでチャーリーは真夜中に目が覚めた。なりゆきで兄弟姉妹4人の「真夜中のパーティー」が始まってしまう。母親にばれないようにめぐらす策略が最高!
老木ゆえに切り倒される「牧場のニレの木」をめぐる少年たちの力関係。
「川のおくりもの」が描き出す繊細な心の動きが印象に残る。川遊びをしている時に見つけた珍しい淡水貝を,ロンドンから来た従弟に持ちかえらせるときの揺れる気持ちがいい。意地悪したいわけじゃないけれど,なんとなく悔しい。
耳の聞こえないおじいさんと無口な孫の「ふたりのジム」の交流がとても素敵。子供の時の祖父母に対する気持ちがよみがえってくる。
この本で,唯一,女の子が主人公の「キイチゴつみ」。少しばかり強引な父親との関係が変化する微妙な年ごろ。
水泳の訓練の「アヒルもぐり」でレンガの代わりに古いブリキの缶を川底から拾い上げた少年の,ひそかな達成感がいい。
午後の秘密の冒険の愉しみを,近所の小さな女の子の子守りのために台無しにされ,さらに誤解されて怒られてしまった少年の「カッコウ鳥が鳴いた」。