壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

恐怖の哲学  戸山田和久

恐怖の哲学 ホラーで人間を読む  戸田山 和久

NHK出版新書  Kindle unlimited 

前回、怪談を読んでいて薦められた読み放題本なので、気楽に読み始めたのだが、迷路のように迷いに迷った。紙の本だと新書なのに異様に厚いという事が分かるので、読み始めに身構える。しかし電子書籍は紙という実体がないので、うかつにも読み始めてしまったのだ。

哲学者戸山田さんの著書は『科学哲学の冒険』『論文の教室』を読んだ事がある。語り口はユーモアがあって取りつきやすいのだが、議論の道筋は複雑で深い。本書も冒頭で、少年時代に見たホラー映画が怖すぎて映画館を出て「街路樹のマロニエの根元に嘔吐した」という笑いの取り方が面白く、ホラー映画の話題が満載なので、これなら簡単に読める、と思ったのが大間違い。

「ホラー映画は虚構とわかっていても、なぜ怖いのか? 怖いのに、なぜ映画を楽しめるのか?」という事をテーマに、哲学的思考が延々となされている。第一部で「恐怖」について定義し、「恐怖」が持つあらゆる側面を分析する。第二部では「ホラー」について定義し、「なぜ存在しないものを怖がり、さらに楽しめるのか」に迫っていく。第三部では、「意識」とは何かという大命題に迫っていく。

恐怖を題材にはしているが、真の目的は「哲学とは何か」を語る事なのだろう。先行研究を検討しながら進むので、結論にすぐにはたどり着けず、迷路に迷い込んだような気がしたのだ。

「怖いのに、なぜ映画を楽しめるのか?」は、恐怖と快楽の身体反応は同じような脳内物質と脳神経領域に支配さているからだという説明は納得できる。「虚構とわかっていても、なぜ怖いのか?」は、原始的な恐怖対象だけでなく、人間は知性によっていろいろなものを怖がることができるようになったという事らしい。

巻末には、「おすすめホラームービー10選」があるが、私が見たことのあるのは『ミスト』と『シャイニング』だけだった。ホラー映画の経験がなさ過ぎて、哲学的議論をちゃんと追えなかったという言い訳にしておこう。

頭が疲れたので、次は軽い読み物がいいな。