壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

読書の価値  森博嗣

読書の価値  森博嗣

NHK出版新書  Kindle

面白い本がないかといつも探している。作家の方たちの読書論を読むと、読みたい本がたくさん見つかることが多い。ミステリの「すべてがFになる」と自分語り「工学部・水柿助教授」シリーズを読んだ事がある。森さんは、名大工学部助教授を辞めて作家となり、今は小説の執筆も辞めたそうだ。森さんの小説は高齢者向きではないので読まないが、自分語りのエッセイは面白いものが多い。(この本は購入時、半額。56%OFFは見逃せなかった。割引品はすぐ消費。)

独特な感性を持つ森さんがどんな本をお薦めしているのかと思ったら、そういう趣旨ではなかった。新書版で200頁余りの中に、子供のころからの読書体験から本の選び方、文章の書き方、電子書籍の在り方などが独特の表現で簡潔に描かれている。

本は他人から薦められて読むものではない、本は自分で選べ。それだけだ」と。まさにその通りだけど…。「小学生のときに一番感動した本は、電磁気学の本だった。」とか、「小説はミステリ以外あまり読まない」とか、世の中に迎合しない合理的思考が面白かった。私が中学生のときに一番感動した本の一つは、地球化学の本(メンデレーエフが周期律を作り上げる話)だったので、分からないわけではないけど…。

本は、読みやすい方が売れるから、僕は(ビジネスとして)そういう作品を書いているけれど、自分が読む本には、読みやすさは求めない。」そうです。読みやすい本は「流動食ばかり食べているようなもので、本当の美味しさを知らずに終わってしまわないか、と。」 こういうことが皮肉にもならず、上から目線でもなく、真っ正直に淡々と書かれている。

森さんは強度の遠視であるためか、電子書籍が読みやすいという。これにも共感する。老眼がすすんだ私はほぼ電子書籍しか読めない。でも現在邦訳されている海外の文芸書や純文学は電子化されていないものが多い。値段は同じでもいいから、電子化して欲しい!! 図書館で電子書籍を貸し出してくれるともっとうれしいけどね。

「日本で電子書籍の普及が遅れる理由」の項は大変参考になった。本は最終的にすべて電子化され、オンデマンドとして紙の本が印刷されるという未来を森さんは予想している。しかし、作家(小説家)は残るだろう、「おそらく、AIが作品を書くようになっても、人間の作者を装うだろう」と。

一時間に6000文字を入力し、10年くらいの間に数十冊の本を上梓した森博嗣氏は、もしかしたらAIなのだろうか(笑)。