壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

およね平吉時穴道行  半村良

およね平吉時穴道行  半村良

角川文庫  電子書籍

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半村良の『産霊山秘録』を再読するつもりだったが,伝奇長編小説に向かう体力がなくてこの短編集にしてみた。半村良の初期短編集だそうだ。表題作の「およね平吉時穴道行」は,たぶん,50年くらい前の当時の「SFマガジン」で読んだのだと思う。それ以外の短編は読んだ覚えがなかった。70年代は日本のタイムトラベル物の全盛期だったような気がする。

そのころ(昭和40年代)にコピーライターの「私」が親類の老人から山東京伝にまつわる古文書を受け継いだが,その中に素人の書いた日記が混ざっていた。天明四年(1784年)から始まり,明治三十三年(1900年)で終わる日記は,同一人物「平吉」の手によるものだった。…という導入部から,山東京伝の妹「およね」が昭和で新進のスターになっていて偶然に「私」がそれに気づく。…もう現代では物珍しさもなくなってしまったが,その頃は和もののタイムトラベル作品として新鮮だったことを覚えている。

その他の短編も昭和の色濃い作品で,今読むと「昭和は遠くなりにけり」感は否めない。宇宙から出稼ぎにきたおじいさんが酒を飲んで愚痴っている「酒」や,宇宙人に「収穫」されてしまう人類や,猛烈サラリーマンたちの男の美学が書かれた「虚空の男」など。