壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

六本指のゴルドベルグ 青柳いづみこ

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六本指のゴルドベルグ 青柳いづみこ
岩波書店 2009年 2000円

「ボクたちクラシックつながり」は音楽コミックを題材にした軽妙なエッセイで、ピアニストの裏事情に迫っていました。今度も同じようなスタイルで、音楽にまつわる小説をネタに、音楽論が展開されていきます。

「六本指のゴルドベルグ」は、あのハンニバル・レクター博士の弾くバッハです。多指症のレクターがどんな運指法を用いていたのかなんていう話から、グールドの奏法に至るまでの面白い話がいっぱい。ゴルドベルグ変奏曲にちなんでなのか三十章のそれぞれに、ミステリから古典までの音楽小説が幅広く取り上げられています。

幼い頃から厳しい練習を重ね、音大のピアノ科を卒業して留学してコンクールに入賞したとしても、コンサートピアニストとして食べていけるのはほんの一握りの人たちだそうです。そういう後戻りできない人生を、カストラート(男性の去勢歌手)に重ねてしまったりと、ピアニストならではの視点で独特な心理が深くえぐりだされています。でも何よりも音楽に対する情熱が伝わってきて、読みたい本がまた増えました。