壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

血統 ぺディグリー 門井慶喜

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血統 ぺディグリー 門井慶喜 
文藝春秋 2010年 1650円

『おさがしの本は』で知った門井さんの新刊です。幸運にも新着図書の棚で発見!

高名な日本画家を祖父と父に持つ三代目の時島一雅は、血統へのプレッシャーからか日本画を捨て、今はペット肖像画を生業とする職人として生きている。近づいてきた自称ブリーダーの森宮に、純白のダルメシアンを作る事業に誘われ出資する事になった。その森宮が山の中で不審な死を遂げ、時島も大きな事件に巻き込まれていく。

ミステリ小説の要素はかなり低いと思われますので、ネタバレ含みの感想になりますが・・・

日本画の家系という血統の呪縛が、時島一雅をして、犬の品種改良に強い関心を抱かせてしまうということでしょう。品種改良の過程での近親交配(品種を維持するためには欠かせないが)を知った時島が嫌悪感を持ったとたんに、婚約者から妊娠を知らされます。さらに狂犬病に感染したかも知れないと入院した病室で、日本画家としての自分の才能と血筋について葛藤し、さらに垂直感染について悶々として、狂気に駆られていく最後は迫力がありました。

しかし、感染パニックという背景の印象が強いせいなのか、会話と改行ばかりの300ページという短さのせいなのか、残念ながら主人公の心理的葛藤の描かれ方が不満足でした。題材には、ビルドゥングスロマン(アンチ~だとしても)としての芸術家小説の雰囲気がありますので、もっと書き込んでくれたらいいのにと思います。最近の日本の小説は、二、三時間で読了するような、手軽で短いものが目に付きます。もっと長い、読み応えのあるものは、・・・・・たぶん、売れないんでしょうね。