壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

暁英 贋説・鹿鳴館 北森鴻

イメージ 1

暁英 贋説・鹿鳴館 北森鴻
徳間書店 2010年 1900円

『河鍋暁斎』つながりで、北森さんの未完の絶筆という小説を教えていただきました。べるさん、ありがとう。関連本をタイムリーに知る事ができるというのもブログの楽しみの一つです。

『暁英』は英国人建築家ジョサイア・コンドルの雅号。お雇い外国人として25歳の時に来日し、鹿鳴館などを設計。河鍋暁斎に弟子入りして日本画を学び、日本文化を愛して生涯を日本ですごしたという、なかなか魅力的な人物です。その『暁英』の視点から明治初期の裏面史をひもといた、魅力的な歴史ミステリでした。北森さんの文章は緩急自在で、講談の語りのような独特なリズムですから、それに乗れさえすればスイスイ読み進めます。

読者にとって未完というのは残念な事ですが、歴史の謎をあれこれ考えて見るのは楽しみかもしれません。鹿鳴館鹿鳴館外交はどのように西洋の猿真似といわれ悪評紛々になってしまったのか、昭和15年鹿鳴館が取り壊されるまでのいきさつ、暁英が失脚した経緯は何か、河鍋暁斎との付き合いはこの後どう展開していくのか、コンドルが残した『河鍋暁斎伝』をますます読んでみたくなりました。

でも未完というのは著者にとっては無念というしかないでしょう。北森さんが残した謎を冒頭、暁斎の臨終の場面で語られる、“日本政府に対し十八万円の喧嘩を売ったという”鹿鳴館の設計図は?『暁英』の物語の枠として設定されている現代の作家津島好一がどのようにつながってくるのか? いくつかの謎は解けぬままですが、津島好一の作中作である『小説・暁英』の精密なプロットは、津島の中で完成しているそうですから。   合掌