壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

観光 ラッタウット・ラープチャルーンサップ

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観光 ラッタウット・ラープチャルーンサップ
古屋美登里訳 ハヤカワepiブック・プラネット 2007年 1800円

たった今、世界から鮮やかに切り取られた、したたるようなみずみずしさを持つ作品ばかり、っていうのはちょっと言い過ぎかしらん。でも、アメリカ生まれの若いタイ人作家ラッタウット・ラープチャルーンサップ。デビュー作なのに、巧すぎるくらい巧いんです。十代の少年少女の心情とタイの日常が繊細なタッチで描かれていて、どれもが質の高い短編でした。

『ガイジン』アメリカとの混血の少年はいつも観光客のアメリカ娘に恋をする。異国への憧れと反発が象徴的に描かれる。
『カフェ・ラブリーで』貧しい生活の中、年の離れた兄を慕う少年の屈折。
『徴兵の日』親友と徴兵の抽選会にいく。裕福な「ぼく」が貧しい親友に持つ罪悪感。
『観光』遠くの大学に進学するはずだった少年は、失明しかけた母と観光に向かう。美しい風景描写。
プリシラカンボジア難民の少女と知り合った少年たち。しかし大人たちは難民を排除しようとする。
『こんなところで死にたくない』タイ女性と結婚した息子の元にやってきた半身不随のアメリカ老人。思うように行かない人生に腹を立てるが。
『闘鶏師』闘鶏にのめりこんで破滅していく父を見詰める少女。がんじがらめの状況が痛々しい。

欧米の言葉で語るアジア出身の作家たちは、みんな実力派です。アジアの物語が欧米というフィルターを通して日本に伝わってくるということは・・・・・まあしょうがないですね。