壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

犬の帝国 アーロン・スキャブランド

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犬の帝国 アーロン・スキャブランド
幕末ニッポンから現代まで
本橋哲也訳 岩波書店 2009年 3200円

新着コーナーで見つけた本です。『王を殺した豚 王が愛した象』で興味を持った「歴史の中で動物がどんな役割を演じ(させられ)てきたか」というテーマに沿う一冊です。

第一章 犬と帝国主義
第二章 イヌの文明化,あるいは犬の飼いならしと滅ぼすこと
第三章 ファシズムのふわふわの友――「忠犬」ハチ公と「日本」犬の創造
第四章 戦争の犬たち――大小あらゆる動物の動員
第五章 犬の世界――犬を飼う習慣の商品化

幕末の頃、日本独特の品種である狆(ちん)は犬と猫の間の動物だった!とか、ジャパニーズスパニエルとして西洋でもてはやされたとか、犬に関するたくさんのおもしろいエピソードが丹念に検証されて、日本の近代化における社会と思想の変遷を写しだすものとしてとらえられています。

維新の頃に西洋人が持ちこんだ洋犬を「カメ」と呼んで「植民者の犬」と尊重し、一方殆どが半野生化した日本の土着の犬は野蛮で未開であるゆえに撲滅することが近代化の証のように捉えられていました。20世紀になり、ナショナリズムの台頭とともに在来犬が尊重され、日本犬の「純血種」が国家の象徴として形成されるようになり、1932年の「ハチ公」はまさにそういう時代に作られた物語であり、そのわかりやすい感傷的な物語がもてはやされたのは、その不安な時代を反映しているというわけです。

日本の近代化が西欧の帝国主義の客体から主体への急速な変化であるという見方が強調され、その文脈の沿ってのみ資料が解釈されているところが気にはなったのですが、そのほかにも「のらくろ」の果たした役割、戦争に総動員された普通の犬たちの行方、戦後のペットブームと商業主義など、アメリカ人歴史家の目で見た日本が少し皮肉な口調で非常に明確に解釈されていておもしろかったと思います。