壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

プルーストとイカ  メアリアン・ウルフ

イメージ 1

プルーストイカ 読書は脳をどのように変えるのか? メアリアン・ウルフ
小松淳子訳 インターシフト 2008年 2400円

プルーストイカ」の意表をつく組み合わせと、さらに副題「読書は脳をどのように変えるのか?」をみれば、もうこれは読むしかない!と思いました。でも数日前に読んだので、もう忘れかけています。『プルースト』が意味するのは読書や思索などの脳の高次機能、それが『イカ』(巨大神経軸索)で表される神経生物学的な基盤とどのように結びついていくのかというのが、この奇抜な題名なのでしょう。

人間の文明の中で書字が発展するにつれて私たちの脳がどのように変化していったのか、また幼い脳はどのように読むことを覚えていくのか、読字障害(ディスレクシア)の原因は何か、というとても興味深い内容でした。文字の起源と考えられるクレイトークンをシンボルとして認識するところから始まり、楔形文字ヒエログリフギリシャ文字の発明まで、人類の脳がどのように効率よくまた広範に使われるようになったかが明かされています。

脳イメージング技術によれば、アルファベットのように一つの音素を一つの書記素で表す言語体系の『英語脳』、中国語のようなロゴシラバリーを読む『中国語脳』、漢字とかなの二種類の書記体系を読む『日本語脳』では、活性化される脳領域が異なるそうです。『日本語脳』は漢字を読むときは『中国語脳』と同じ経路を使い、仮名を読むときはアルファベットに近いといいます。

昨年、NHKスペシャルをみて『識字障害』(ディスレクシア)に興味を持ちました。読字は主に左脳の回路を工夫して流用しているけれど、ディスレクシアではそれがうまく機能しない。その代わりに右脳の回路を使っているかも知れないといいます。人類が文字を発明して読字能力を完成するまでに2000年かかっているけれど、一人の人間が生まれてから、ほぼ2000日で流暢に読めるようになることを要求されているのが現代社会です。たった2000年だから生物進化から言えばまだまだ不完全だし、たった2000日だから読字が不得意だと学習障害と認識されてしまうのですね。字を読むのが不得意でも、右脳の発達により別の個性を備えているので、別の指導方法が必要だということでした。

面白い内容でしたが、欲を言えば、示された脳領域図がうまく読み取れないのと、文章が硬くて(たぶん原文が論文調であり忠実な訳文であるため)繰り返し読まないと意味が分りにくいのと、かなり英語に偏って論じているところが不満足でした。(例えば、仮名のほうが漢字よりも早く読めるという話はよく分からない。)