壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

逃げてゆく愛 ベルンハルト・シュリンク

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逃げてゆく愛 ベルンハルト・シュリンク
松永美穂訳 新潮クレストブックス 2001年 2000年

「朗読者」で知ったシュリンクの世界はこの短編集にもありました。ミステリ要素ばかりでなく滑稽味も加わって、様々な愛の形とその背景にある現代ドイツの状況が表現された7つの短編は、読みやすいけれど読み応えがありました。

『もう一人の男』妻の死後に見知らぬ男から届いた手紙。喪失感からか、その男の正体を探る。意外にも主人公の再生の物語です。
『脱線』一組の夫婦との友情を描いた物語は、ベルリンの壁崩壊前後の暗い部分をあぶりだします。
『少女とトカゲ』亡くなった父の部屋に飾られていた一枚の絵。その存在を隠し続けた両親の秘密とは・・。「朗読者」のテーマと類似したもの。
『甘豌豆』妻と二人の愛人との三重生活を、ジャグリングのようにこなしていた主人公は、ついに三人の女性の間でジャグリングされてしまう滑稽な悲劇。
『割礼』仲のよいドイツ人の青年とユダヤ系の女性の関係が、家族や地域に広がるにつれて、二人の間に亀裂が生じます。
『息子』南米の紛争地に監視員として派遣された男の、息子に対する思い。
『ガソリンスタンドの女』夫婦間の齟齬はアメリカ旅行中にどんどん広がって・・。