壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

酔郷譚 倉橋由美子

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酔郷譚 倉橋由美子
河出書房新社 2008年 1500円

桜花変化/ 広寒宮の一夜/ 酔郷探訪/ 回廊の鬼/ 黒い雨の夜/ 春水桃花源/ 玉中交歓

桂子さんの物語もこれで最後かと思うとさびしいです。桂子さんの晩年のパートナーは入江氏です。その孫にあたる入江慧君がバーテンダーの九鬼さんの魔酒を飲んで陶酔し、いつしか異世界に誘われて、あるときは別の人生を生き、あるときは女性と歓を尽くすのです。

倉橋由美子の情念の異世界は、漢詩、王朝文学、和歌、能、ギリシャ神話に題材をとった不思議に満ち、あくまでも美しく、夢と現が交叉する官能的世界です。この連作短編は、「よもつひらさか往還」の続きに当たるものです。生と死の境を行き来し、あの世とこの世の往還を物語って、倉橋さんは読者に別れを告げたのかもしれません。

どこか、「聊斎志異」、「東方奇譚」「高丘親王航海記」を思い起こさせる世界です。 サントリーのPR誌に連載されていたので、毎回美味しそうなカクテルが登場しますが、それを飲んで陶然としたような気持ちになりました。

リアルタイムで「暗い旅」や「悪い夏」を読んでひきつけられ、「パルタイ」や「スミヤキスト」にさかのぼった記憶があります。桂子さんシリーズは「ポポイ」以外は網羅しているはずです。もう一度シリーズを読み返したくなりましたが、所有していた蔵書はほぼ散逸していてとても残念です。

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イメージ 2よもつひらさか往還 倉橋由美子
講談社 2002年 1700円

花の雪散る里/果実の中の饗宴/月の都に帰る/植物的悪魔の季節/鬼女の宴/雪女恋慕行/緑陰酔生夢/冥界往還記/落陽原に登る/海市遊宴/髑髏小町/雪洞桃源/臨湖亭綺譚/明月幻記/芒が原逍遥記