壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

疑似科学入門 池内了

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疑似科学入門 池内了
岩波新書 2008年 700円

新書ですので数時間で読めてしまう、とても読みやすい本です。前書きにあるように、欧米、特に宗教色の強いアメリカには、科学と宗教の対立関係があってマーティン・ガードナーやカール・セーガンをはじめとする疑似科学に関する本は多数出版されているけれど、日本にはまとまった形での疑似科学本が少ないということです。本書では、疑似科学をかなり独自の基準によって3つに分類しています。
『第一種疑似科学』人間心理につけこむ科学的根拠のない言説。
  例:占い・超能力・超科学・「擬似」宗教などのオカルト
『第二種疑似科学』科学を悪用(誤用、乱用)するもの。
  例:(a)科学法則に明らかに反しているもの。永久機関・水の記憶など
   (b)	科学的根拠が不明なのに商売ネタにであるもの。マイナスイオン・健康食品・「水」商売・
   (c)	統計や確率を巧みに利用して、正しいと思わせる言説。因果関係と相関関係の混同。
『第三種疑似科学複雑系であるために結論が容易には得られないもの、疑似科学と真正科学の境界にあるグレーゾーンの科学。
  例:地球温暖化のような環境問題・電磁波公害、狂牛病、遺伝子組換え作物、地震予知環境ホルモンなど。
疑似科学というと第二種のものを指すと思いましたが、第一種や第三種も、人を騙したり金儲けや商売に使われたり、研究の予算を分捕ったりするのに使われるので、広い意味では疑似科学、えせ科学なのでしょうね。この本の目的はえせ科学に騙されないための啓蒙書であるようです。

第一章、第二章では、何が疑似科学なのかということが分かりやすく解説されています。「超常現象をなぜ信じるか」「統計でウソをつく法」「もう牛を食べても安全か」といった新書の分かりやすい本をさらに要約して説明していますので、かなり分かりやすいです。

第三章は疑似科学がはびこる社会的背景が解説されます。世の中が便利になり、機械によってマナーまで代行してもらえる現代人は、自分で考え判断することをやめて、「お任せ」してしまった。科学至上主義に陥るか、反科学に走ってしまうのも、与えられたものだけを選択するような「お任せ」体質が原因。インターネットによる自己中心的な自己表現と匿名性による無責任さ。人間の欲望を叶えることが主要な目的になった現代医療。テレビによる無自覚な世論誘導などだそうです。池内さんのお気持ちはよく分かるし大筋で賛成ですが、やはりここまで一刀両断に大雑把に断ち切られ決め付けられると、ちょっとついていけないところがありました。薄い本なので性急な結論も致し方ないのかもしれませんが、この本を読むべき若い読者が引いてしまうのではないでしょうか。

第四章では、グレーゾーンの科学というより、要素還元主義的な科学では取り扱えない「複雑系」の科学についての解説です。その中で「プリオン説」に関する議論で、細かいことですが幾つか気になった点がありました。ちょっと事実誤認かしらん。それに、リスク論や予防原則のことは、もう少し紙面を割かないと不十分でしょうね。でも、あとがきに、「叩かれるのを承知で上梓した」とあるように、疑似科学に対する議論が広がって欲しいという池内さんの熱意に大賛成です。