コペンハーゲンの古書店が爆破され、「シグマ」の隊員グレイは謎の暗殺者に命を狙われる。ネパールの僧院で調査していたペインター司令官は謎の奇病に感染して、医師であるリサとともに、ヒマラヤ山中の秘密基地に捕らえられた。南アフリカでは、ズールー族の伝説の怪物がよみがえった。その裏にあったのは、ナチの亡霊たちの「釣鐘」と「レーベンスボルン」計画。「シグマ」のメンバーは世界を救うことができるのか。
おお、久しぶりのアクション小説です。米国防総省の機密機関「シグマフォース」のシリーズ二作目だそうで、どこかで読んだような気がしましたが(新刊なので、気のせいです)ハリウッド映画を見ているような面白さでした。
コペンハーゲン・ネパール・アフリカ三点同時進行のカットバック、最新の知識と機器を装備した機密機関、ナチスがらみの歴史ミステリ、ルーン文字の暗号、流行の科学理論によるトンデモ科学、薀蓄とちょっとロマンス、ワシントンDCの危機、ドッカンドッカン大爆発、そしてノンストップのアクションシーンに分かりやすいストーリー、面白くないわけがないのです。
面白くて二、三日で読了しました。しかし、「疑似科学入門」を読んだばかりなので、「トンデモ」の部分にはいささか辟易。まったくの空想科学ならば気にならないのですが、『科学的事実に関して:・・本書の中で提示した量子論、知的デザイン論、進化に関する議論は、すべて事実に基づいている。』 という但し書きがあるのです。ゼロ点エネルギー、カンブリア爆発、ホメオボックス遺伝子、幹細胞キメラ、量子病、量子進化、ID。ズルズルと似非科学に滑り込んでいくあたりが、怪しぃ~。最後はもうオカルトです。荒唐無稽なのは嫌いじゃないけれどオカルトは苦手なので、最後は腰砕けました。
ユダヤ人であるアインシュタインの相対性理論に対抗して、ナチスが研究したのはハイゼンベルグ、シュレーディンガー、プランクらの量子論で、彼らは全員、祖国ドイツに根を下ろした科学者だったという記述があるけれど、シュレーディンガーって亡命してなかったかしら。重箱の隅はともかく、「軍事研究と科学者の良心」というテーマは気になるので、池内了「禁断の科学」をいつか読もう。
「ナチスもの」というのは、ノンフィクションからメインストリーム、エンタメ系のフィクションまで、数限りなくあります。例えば本書のようなものはドイツではどのように受け止められているのか、ちょっと気になります。