やっとカエサルにたどりつきました。前作「勝者の混迷」をほとんど忘れるくらいの時間がたっていました。塩野さんの筆は快進撃で、カエサルが育ったころのローマの状況を事細かに説明していますので、上巻(第一章幼年期、第二章少年期、第三章青年前期、第四章青年後期)の終わりでやっとカエサルは世に出ることになりました。
カエサルの初弁論は全文が引用されていて、二千年以上前の記録が残っていることに驚き。大衆の心をひきつけたカエサルの秘密は、女にモテまくったうえに恨まれることのなかった彼の資質と手腕に共通するものだというのが塩野さんの推察です。さらに、なぜ女の恨みを買わなかったのかの解明は、男性の歴史家には手に負えず、女の立場に立って初めて可能になった!と主張していますが、ウ~ン。
カエサルは、こちらの方言(しぞーか弁)で言うところの『まめったい』男ですね。『まめったい』というのは「几帳面で、積極的で、こまめによく働く」という意味らしいのです。『まめったい』にはコツブ感が付きまといますが(方言のニュアンスは外来人には難しいので、曲解かもしれません)、塩野さんのカエサルは、もちろん大胆で独創的な大物です。
中巻・下巻はガリア戦記。以前に読んだハンニバル戦記は戦場における兵法の面白さだったけれど、カエサルの面白さはもっと多面的な戦略にあるようです。ガリア人とゲルマン人の間にあって力の均衡をはかりつつ、北伊属州を統治しながらローマでの対策も忘れていない。若いころのクラッススからの大借金を返済しさらに裕福になったカエサルは、経済にも明るいようです。
興味深いのは、戦役7年目のアリシア包囲戦。ガリア人の若きリーダー:ヴェルチンジェトリックスという好敵手を得てからの戦いは、双方に明確な戦術があっておもしろい。そしてローマの土木工事の見事さ、技術力の確かさに驚きました。再現映像で見たいけれど、ガリア戦役を描いた映画はないのかしら。シーザーとクレオパトラとか、暗殺の場面はチャールトン=ヘストン主演の映画を見た覚えがあります。(チャールトン=ヘストン氏の訃報で思い出しましたが、カエサルではなくて、アントニウス役だったんですね。)