壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

剣闘士スパルタクス

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剣闘士スパルタクス 佐藤賢一
中公文庫 2007年 743円

15歳でトラキアから奴隷として連れてこられ、養成所で剣闘士に仕立て上げられたスパルタクスは、持ち前の美貌と群を抜いた実力で人気ナンバーワンでした。しかし、女パトロンに呼び出され、意に反すれば仕返しされるような奴隷の身分にふと嫌気がさし、誘われるままに脱走して、いつの間にか反乱軍のリーダーに祭り上げられていました。

平等や自由への希求とか人間解放とかそんな大義名分があるわけでもなく、戦闘マシーンとしての戦いの美学だけがスパルタクスの拠り所でした。共に脱走した数十名の剣闘士だけのときはそれでよかったのですが、仲間を失い、噂を聞いた多数の奴隷たちが参加して数万人の集団に膨れ上がると、リーダーとして何を目的にしたらいいのか分からなくなってしまいました。

カリスマ性があって、闘う事にかけて天賦の才をもつスパルタクスは、次々とローマ軍を打ち破りました。しかし所詮寄せ集めの集団です。故郷(トラキアギリシャガリアなど)に帰ろうと、いや、シシリアを手に入れて奴隷の土地を作ろうと、イタリア半島を南から北へ、ルビコン川を渡らず再び南へと迷走し、カラーブリアの山岳地帯に追いつめられて最期を迎えました。ローマに反抗したけれど、ローマに惹かれていたようでした。

「ローマ人の物語:勝者の混迷」で読んだばかりのスパルタクスの話で、塩野さんのローマ史観に浸っていたため、頭を切り替えるのに時間がかかりましたが、現代風の人道的な立場を取っていない点は共通していました。だから面白いのですが。

ふとしたことで踏み出してしまった道を、それでも何とか先に進んでいこうとするスパルタクスの最期は印象的です。最後にちょっと出てきたカエサルは、見栄えのしない小器用な男として描かれていました。塩野さんは、カエサルを高く評価しているみたいですから、文庫本にして六冊もの「ユリウス・カエサル」が楽しみです。「カエサルを撃て」の方も読まないとね。