壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

ビーコン街の殺人

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ビーコン街の殺人 ロジャー・スカーレット
板垣節子訳 論創海外ミステリ 2007年 2000円

「百年の誤読」から連想して『未読だけど「懐かしの**」本』を企画してみました。どうせ、二、三冊で終わるはずの企画ですが、今回は「懐かしのミステリ」。私の推理小説の原点は、1950年代後半に出版された東京創元社「世界推理小説全集」なので、1930年代のものは懐かしさのツボです。

ロジャー・スカーレットの「エンジェル家の殺人」「猫の手」「ローリング邸の殺人」以外の残り二冊は、抄訳しかありませんでしたが「ビーコン街の殺人」はやっと完訳が出ました。残りは「白魔」だけ。

ドロシー・ブレアとイヴリン・ペイジの合作ペンネームであるロジャー・スカーレットには、ボストン警察のノートン・ケイン警視シリーズが五冊あるのみで、本国アメリカではすっかり忘れられた存在です。日本では「エンジェル家の殺人」を江戸川乱歩が「三角館の恐怖」として翻訳したため、完訳の要望が高く、1930年に書かれた物が今頃完訳されました。

抄訳の題名「二重密室殺人事件」の名の通り密室物です。容疑者の人数は早々と絞り込まれ、付随する事件は途中で解決するのですが、ケイン警視は最後の最後まで、もったいぶって解決を引っ張ってくれます。名探偵の個性も、コンパクトなまとまりも、トリックの古めかしさも、古きよき時代の「懐かしの本格ミステリ」でした。