壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

百年の誤読

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百年の誤読 岡野 宏文, 豊崎 由美
ぴあ 2004年 1600円

「百年の誤読:世界文学編」もでるらしいとの噂を聞き、まずは、前から気になっていたこの本を読もうと思いまして。謂わば、仮想本棚の積読本です。「文学賞メッタ斬り」のほうは最近の受賞作品を読んでいないのでパス。でも百年間のベストセラー本なら少しは読んでいるはず。あまりの面白さに、つい饒舌になってしまいます。

20世紀の始めから、10年ごとに10冊のベストセラーを取り上げているから、いわゆる文豪の名作もすべて時代性を無視し、『現代という文脈』の中で誤読しています。批評というよりは仲間内の世間話、いやいや、掛け合い漫才のような面白さです。どうやったら読者に楽しんで(*笑って)もらえるかが工夫されています(*本文より多いかもしれない*脚注(*これが面白いし、勉強になるのね!)と、三種類の索引と、参考文献までついている)。(*なんか*脚注の影響を多大に受けてしまった。脚注というより一人ツッコミ。)

だから文学的価値云々ではなく、今読んで、面白いか面白くないかが、このお二人の意図した基準になっていて、実は大昔の作品を批評しつつ、現在の文学作品を引き合いにしているところもミソ。いくら脚注の小さな文字だとしたって、存命の作家に対し、失礼を顧みずにかなり言いたい放題のように見えるのですが、かなり直球ど真ん中(*だと私は思う。)。

これが覆面座談会だったら気分が悪いところですが、名前も顔も(*写真はないけれど)出しての放言なので痛快です。瑕疵がないという名作にも、無理やりツッコミを入れて盛り上げようとしています。悪意での悪口ではないので、思い入れのある本が思い切り貶されていても、それほど腹が立ちませんでした。

中学生の頃、映画を見てから、夢中になって読んだ「風とともに去りぬ」がアンチ・ビルドゥングスロマンであると酷評されていました。なるほど、スカーレットにイライラしたのはそのせいだったのかと妙に納得しました。(*映画まで貶されるとムッとしそう。)

あとは、幸いなことに、このお二人とはわりと趣味が会うみたい。“宮沢賢治をめぐるうざったいあれこれと村上春樹”にはニヤリ。(*この場合は両方とも褒めています。サリンジャーも入れたらどうでしょう)。

出版が2004年(*雑誌掲載はもっと前かな)なので、ネタの一部が古くなっていますが、「百年」の重みはあります。戦前のベストセラーについては、高校の歴史や文学史の副読本に出ていた本の名前が、ずいぶんと身近なものになったという功績はすごく大きいですね。二人が「変な本だ」、「ばかな本だ」というたびに、反対に、読みたく(*というより、見たく)なるじゃありませんか。
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ディストピア版「となりのトトロ」と評された佐藤春夫の「田園の憂鬱」を読んで見たくなりました。(*古紙回収に出そうと紐で縛ってあった全集ですが、中のいくつかは未読でした。また捨てられなくなったゎ。もうすぐ、「百年の積読」になりそう。→)

百年間どんな本がベストセラーだったのかを見ると、1960年に不連続面があるそうです。読書傾向が「だらしな派」へ、がらっと変わったというのは、(*まさか60年安保のせいではないにしても)あの頃のめざましい経済成長によって、世の中全体の消費動向が変わったことの表れなんでしょうか。

でもそんな分析より、その時代にどんな本がベストセラーだったかというのがとても面白いです。1921―30年に小林多喜二の『蟹工船』が入っている。あんな左翼小説がベストセラーだったというのは驚きです。(*この本、読んだと思っていましたが、絶対に読んでいないことが判明。だからあんな左翼小説なんて言えません。)

そして1946年のサルトル『嘔吐』が第五位というのに、豊崎さんのツッコミは「ホントにみんな読んだのかよ!」。(*はい、読みましたけど、意味は分かりませんでした。1941年から1980年までの40冊は、なぜか半分以上読んでいます。) 当時読んで大嫌いだったあの本も、酷評されていてすっきりしました(*いわずと知れたあの本ですョ)。

最近の20-30年のベストセラー本は、ほとんど読んでいません。読む本を図書館で借りるようになり、予約100人待ちでは読む気になれないせいです。雑誌も読まなくなったので(*書店にもほとんど行かないので。*つまり立ち読み)、2008年3月発売予定の「百年の誤読 世界文学編」が楽しみです。発売前から図書館で予約リクエストできるのかしらね(*買えば!とも思う)。私の嫌いなあの本はメッタ斬って欲しい。私の好きなあの本だって、手酷く誤読されていたらうれしい(*mか!いやこの場合は大文字?)。

この本を『懐かしのメロディー・明治・大正・昭和・平成編』風に誤読して、ずいぶんと楽しみました。ベストセラーがロングセラーとは限らないから古いところは知らない本もありますが、戦後のものは、未読でも名前だけは知っています。(*そこがベストセラーを語るうまみでもあるのでしょう。)

あの頃読んだ(または読まなかった)「懐かしの***」本シリーズに向かいそうな予感!