江戸の化物の次は、東京の妖怪かと安易な連想で読み始めた本です。「小説のストラテジー」で作例として取り上げられていた「水晶内制度」に興味を持ったものの唐突に読み始められず、まずは身辺雑記のようなものと、笙野作品を初めて手に取りました。
『都会に出た女が結婚をせず、子どもを産まず、恋愛もせず、一生勤められるという保証もなく暮らしていると、40歳前後で急に妖怪になってしまう…。魔性の都市に蠢く魑魅魍魎たちの物語』
物書きの単身妖怪ヨソメは、七年住んだ八王子から小平、中野と移り住み、今は雑司が谷に目立たないようにそっと棲んでいる。同居人の触感妖怪スリコはワープロを打つ猫科の獣で、雪の降る夜に中野の公園で出会った。団塊妖怪空母幻の現身は編集者キナシで、この妖怪にはさんざんに苦しめられた。
油断すればふと傍らにいる抱擁妖怪さとるは、東京すらりんぴょんのようにも死神のようにも見える。女流妖怪裏真杉が入り込んで、和紙風のワープロ用紙に毎夜うとましい文章を綴った。その妖怪裏真杉はヨソメが正月におせちを用意しなくなってからは姿を消し、雑司が谷の町にも慣れていったが、東京にはヨソメを悩ますたくさんの妖怪は後を絶たなかった。
『「妖怪から人間に戻れるかも」、いや、今度は「ひきこもり妖怪」にされるだけだ。変なやつと思われて「妖怪ですから」と逃げ、変なやつがあまりに怖いとそいつを妖怪化し、耐え切れない事件はみんな妖怪のせいにし、そうやって複数の現実がぶつかり合うのを避けて、成立する「東京」…。』