壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

きつねのはなし

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きつねのはなし 森見 登美彦
新潮社 2006年 1400円 

「夜は短し歩けよ乙女」で森見さんの妄想力に魅せられ、二作目はテイストの違う物語を読んでみました。にぎやかな青春の滑稽譚「夜は短し**」は軽妙な文体と奇怪な発想がまずは見立ってしまうのですが、そんな作家の確かなデッサン力と筆力を感じたのがこれら四つの短編です。想像を喚起させる筆致は並みのものではありません。

「夜は短し**」に通底する世界を持つのが「きつねのはなし」と「果実の中の龍」。「きつねのはなし」はオーソドックスな怪異譚ですが、青春のせつない甘さと、世間の闇に潜む得体の知れない恐怖がみごとに重なっています。「果実の中の龍」の先輩は、あちらの世界に姿を消したのでしょうか。周到に重ねられた嘘が心地よい。

大学生の私と四人の高校生との間には雨に濡れた胴の長いケモノの姿をした「魔」が棲んでいます。「水神」の水を介した恐怖は日本の怪談の典型ですが、男系一族の物語の、語り手の微妙な位置がいいですね。四編とも別の話ですが互いに緩くリンクしていて、きつねに化かされたような気がしました。

「夜は短し**」を読んだときは、若い人たちの大騒ぎについていくのはしんどいと思いましたが、森見作品はもっと読みますよ(あと三冊、ついていけるかな?)。