“西洋人の見たアジア”というテーマ(今思いついただけですが)で、イザベラ・バードの次に読みたいと思ったのが、映画「Seven years in Tibet」 の原作です。オーストリアの登山家ハラーが第二次大戦中に、インドのイギリス軍捕虜収容所から脱走してチベットに逃げ込み、ダライラマの家庭教師となった話です。
実話に基づくとも知らずに以前テレビで見た映画でした。映画のほうは、ハラーのオーストリアに残した息子と少年ダライラマを重ねているような心情が描かれていましたが、原作では故国に特別な係累はいないとありました。でも少年ダライラマに対するハラーの想いはそれに近かったかもしれません。
本書の半分は、1944年インド奥地からチベットに入り、ヒマラヤ山脈の北側に沿ってラサまでの一年八ヶ月2-3000キロの逃避行の様子です。チベットは外国人の入国を認めないため、インドやネパールへ何度も送還されそうになるのですが、脱走者五人のうちハラーとアウフシュナイターの二人の登山家だけが、たどり着いたという辛い旅でした。
ハラーは、冷静に穏やかに、好意的にこの国を語っています。ラサでは密入国であるにもかかわらず貴族や高官たちの保護を受け、二人がしだいに自立して生活できるようになりました。チベット政府に雇われて給料をもらい便利屋のようにいろいろな仕事をこなし、望郷の想いを持ちつつもここでの生活を充分に楽しんだようです。
14歳のダライラマ十四世と親交を持つようになり、チベットの内部事情や政治的状況が詳しく把握できるようになってからの話はずいぶんと興味深いものです。ポタラ宮の奥深くまで入り、宗教的な儀式まで見学しています。ハラーたちは、中国が侵攻してくるまでラサに五年間暮らしました。