壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

カルカッタ染色体

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カルカッタ染色体 アミタヴ・ゴーシュ
伊藤真訳 DHC 2003年 1800円

「新刊を読みたい」という衝動がたまにやってきます。クレストブックスの最新刊アミタヴ・ゴーシュの「ガラスの宮殿」を探しに図書館に行きましたが未入荷のようで、「カルカッタ染色体」を借りてきました。これは図書館の書棚を通るたびに目に留まり手に取った本でしたが、今まではうさんくささを感じ、なんとなく敬遠していました。改めて扉裏の紹介をよむと、ちょっと面白そうです。
近未来のニューヨーク。国際水利委員会の目録整理をおこなうアンタールのモニターに現れた古ぼけたIDカード。それは、カルカッタで消息を絶ったかつての同僚ムルガンのものだった。端末でムルガンの足跡を追い、その再現を試みるアンタール。ムルガンがカルカッタで見たものは?  マラリア感染のメカニズムに隠されたもう一つの“意味”とは?そして“カルカッタ染色体”とは? 過去と現代と未来、インドとニューヨーク―医学史、SF、ミステリの要素を織り交ぜながら、アメリカ屈指のインド系作家が描く壮大な“陰謀”と“歴史”の物語。
同僚ムルガンはマラリアの医学史研究家で、1995年に消息を絶つ前には、19世紀の終わりにマラリア原虫の生活環を明らかにしたイギリス人医師ロナルド・ロスの追っかけをしていました。

本書の半分くらいまでは、マラリア研究史そのままです。素人同然のロナルド・ロスは、研究を始めて数年のうちに世紀の大発見をしました。1898年に発表した業績について1902年にはノーベル賞を受賞しているわけですから、マラリア感染経路の解明が当時どんなに注目の的だったかがわかろうというものです。

ロナルド・ロスがなぜマラリアレースに勝ったのかという歴史ミステリかなと思っているうちに、“カルカッタ染色体”が出てきたあたりから、あれれれれ・れ・・・SF?ホラー?スピリチュアル?・・
しいて言えば幻想小説でしょうか、最後はとうとう全員であちら側へ行ってしまたような・・・・
壮大な“陰謀”と“歴史”の物語とは思えませんでした。だって何が起こったのかはっきりしないのですから。

でも、わけのわからないところが好きです。それに、ニューヨークの移民たちのコミュニティーも、カルカッタの町の風景も、東インドの田舎も、よみごたえのある描写で悪くないですね。アミタヴ・ゴーシュはカルカッタ生まれでアジア各地を転々とした経歴があるそうで、新刊「ガラスの宮殿」に期待しましょう。

ところで出版元のDHCとは大学翻訳センターの略だそうですが、化粧品も売っているあのDHCなんだそうです。知らなかったのは私だけでしょうか。

イメージ 2ロナルド・ロスの物語は、以前に「マラリアVS人間」で読みました。これがネタ本かと思うくらい同じエピソードがあります。マラリアビジネスの話もあって、事実だけでも充分面白い。

マラリアVS人間 ロバート・S・デソウィッツ
栗原豪彦 晶文社 1996年(1991年)2500円