壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

千年の祈り

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千年の祈り イーユン・リー
篠森ゆりこ訳 新潮クレストブックス 2007年 1900円

文革の後期北京に生まれ、大学卒業後に渡米した著者が、英語で書いたという短編集です。短文の、ポキポキと折れるような硬い文章がリズミカルに続く不思議な味わいでした。

『あまりもの』 社会の片隅で生きてきた貧しい林ばあさんは、小学生の男の子に恋する。

『黄昏』 蘇夫妻は従兄妹同士。彼らは世間に隠している事がある。

『不滅』 代々宦官を輩出してきた町自身が語る、国の歴史と独裁者に似た青年の話。

ネブラスカの姫君』 京劇役者をはさんだ、若い女と中年のゲイの三角関係。 

『市場の約束』 独身の英語教師ミス・カサブランカと、市場で煮卵を売る母。

『息子』 アメリカで市民権を得たゲイの息子に対する母親の溢れる愛情。

『縁組』 若蘭の両親と、時々訪ねてくる炳(ピン)おじさんの複雑な関係。 

『死を正しく語るには』 ばあやである厖夫人が住む四合院の人々。

『柿たち』 17人も人を殺した老大の真実。

『千年の祈り』 アメリカに暮す離婚した娘を訪ねてきた父親。

「中国語で書くと『自己検閲』してしまい、英語という新たに使える言語が見つかり幸運だ」という著者の言葉が、あとがきにありました。西洋というフィルターを通して語られる中国。二十一世紀の鍵を握るであろう隣国の底知れぬパワーを覗き見るような形で、これらの物語をつい読んでしまうのです。文革全体主義、貧困と格差、弾圧、・・。

しかし、この物語の奥には、それ以上の普遍的真実が見えてきます。価値観の異なる世代に属する親と子、社会に受け容れられない者たち、逃れられない不条理・・。どれも味わい深いいい作品ですが『死を正しく語るには』が自伝風で好みかな。