壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

またの名をグレイス (上下) マーガレット・アトウッド

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またの名をグレイス(上)(下) マーガレット・アトウッド
佐藤アヤ子訳 岩波書店 2008年 各2800円

図書館で上巻しか借りられなかったのは、岩波書店のせいでした(下巻は二ヶ月も遅れて刊行)。何とか下巻も確保できて読み始めました。

1843年にカナダで実際に起きた殺人事件をもとにした物語です。オンタリオ州南部の裕福な地主トマス・キニアと、その女中頭ナンシー・モンゴメリが惨殺された事件で逮捕されたのは、使用人の、16歳の美貌のグレイス・マークスとジェイムズ・マクダーモットでした。ジェイムズは絞首刑、グレイスは終身刑になりその後三十年間、キングストンの懲治監で服役しました。

グレイスはヒステリー症状を示し供述は二転三転して、彼女がどんな罪を犯したのかまたは犯さなかったのかについてははっきりしません。服役中のグレイスに面談し、謎解きを進めるのは若い医師サイモン・ジョーダンです。グレイスがサイモンに語る物語は、グレイスがサイモンに聞かせたい物語、もしくはサイモンが聞きたい物語であって、真実の物語ではないでしょう。

そして、資料調査に基づく事実に自由な創作を加えて作り上げた、アトウッド自身が語りたかった物語であり、同時に読み手が聞きたかった物語でもあるといえます。事件の真相は結局のところ明らかにはなりませんが、アイルランドからわたってきたグレイスのささやかな喜びと悲しみ、監獄での暮らしとその後、彼女の縫うキルト、当時の精神医学と神秘主義との関係など読み応えのある物語でした。

各章の題名には、キルトのパターン名がつけられています。日本人には分からないけれど、キルトの歴史って、あちらでは一種の女性史なんでしょうね。英語名を画像検索していろんなキルトパターンを楽しみました。私は一度だけキルトを作りかけたことがあるけれど、無理でした。

ギザギザの縁 Jagged Edge
石ころだらけの苦難の道 Rocky Road
隅っこの猫 Puss in the Corner
若い男の夢想 Young Man’s Fancy
割れた皿 Broken Dishes
秘密の引出し Secret Drawer
スネーク・フェンス Snake Fence
狐と雁 Fox and Geese
心臓と臓物 Heart and gizzards
湖水の麗人 Lady of the Lake
伐り倒される木々 Falling Timbers
ソロモンの神殿 Solomon’s Temple
パンドラの箱 Pandora’s Box
Xの文字 The Letter X
楽園の木 The Tree of Paradise