壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

人はなぜハマるのか

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人はなぜハマるのか 廣中直行
岩波科学ライブラリー 2001年 1000円

「Y染色体から見た日本人」と同じシリーズを探していて見つけました。このシリーズは100ページちょっとの薄い本が多いようです。ペーパーバックで100ページ1000円ですから、1ページが約10円です。一般科学書は大体この値段なのでしょうか。もっと売れる文芸書はこれより安く、ほとんど売れない専門書はこれより高いでしょう。グラムあたりいくらとか、文字数あたりの値段とか、いろいろ比較する方法もあるけれど、こんな比較はもともと意味がありません。値段が高めなのが気になっただけで、岩波だし、図書館で借りましたし。

本を読むたびに影響されてしまう私は、はまりやすいのか疑問に思い、人が「ハマること」の意味を知りたくなりました。この本での「ハマる」の意味は 中毒、嗜癖(addiction)、薬物依存などだそうです。「ハマる」には3つあって、1つめは、薬物依存。2つめは行為にハマる(ギャンブル、買い物、仕事など)、3つめは人間関係。この本は7割がた薬物依存を扱っています。

習慣性の薬物は、サルの場合は、覚せい剤アンフェタミン)やコカインのような「興奮剤系」、モルヒネ、ヘロインのような「麻薬系」、睡眠薬やアルコールなどの「鎮静剤系」、大麻成分THCLSDなどの「幻覚薬系」のほぼ4種ですが、ヒトでは「興奮剤系」と「麻薬系」は一緒に「多幸感」でくくられるような一つのカテゴリーになるらしく、高次な脳の処理過程の関与が考えられるようです。

薬物依存では、強化効果(何かの行動のあと何かが与えられると、その後の行動の頻度が高くなる効果)は脳内報酬系側坐核ドパミン放出と関係がありますが、ドパミン放出が必ずしも「快感」だけを意味するわけではないそうです。

薬物を欲する渇望は、古典的条件付け(パブロフの犬)によって形成された記憶(情動記憶かも)や薬物の影響をより受けやすくなる増感と関係があるらしい。生命維持に欠かすことのできない食や生殖では脳内報酬系の強化効果が重要だが、報酬系ドパミン神経は、報酬を予測している時に高い活動を示し、必ずしも報酬を得られない意外性にも反応するそうです。

薬にハマりやすい性格があるのかどうか、性格は氏か育ちかについてはわからないことばかりです。自分の行動をコントロールする手がかりを内にもたず外にもった時、薬物の自覚症状を判断するのに環境の(周囲の人の)影響が大きいのではないか、つまり側坐核ドパミンが放出されたということをどう感じるのかはこれまでは単純に快感と考えられていました。しかし、状況の認知という過程が加わる(条件刺激によるラベルを貼る:周りの人がトリップしてる)事によって、快か不快かの色彩を帯びるのかもしれないということです。薬物依存が、社会的伝染病であるといわれるゆえんだそうです。

人間は、「興奮剤系」と「麻薬系」に共通性を持つと感じるような融通性の高い認知をします。普通は動物が避けるような苦味、腐敗臭をもつ食物にさえ魅力を感じ、絶叫マシーンを楽しむ人間は、農耕という労苦を伴う労働に耐えるため、飽くなき好奇心と報酬へのたしかな予測の能力を得てきたのかもしれない、人間のハマる能力がそれを支えてきたのかもしれないというのが、著者のまとめのようです。

好奇心と、物事に共通性を見出そうとする想像力は人間独自のものです、というのが私のまとめということで。