壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

図書館の興亡 古代アレキサンドリアから現代まで

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図書館の興亡 古代アレクサンドリアから現代まで マシュー・バトルズ
白須英子訳 草思社 2004年 2500円

「悪魔に魅入られた本の城」のなかで、戦争によりモムゼンの蔵書がドイツの図書館から流出したり、爆撃で焼失したりしたという話がありました。また、ナチによる焚書もあったということで図書館の歴史を知りたくなりました。この太字部分を国立情報学研究所Webcat Plusの連想検索にかけると、この本にヒットしました。

Webcat Plusでは、「BOOK」データベースの、“中世大学図書館や王室文庫、イスラーム世界の「知恵の館」やユダヤ人の書物の墓場「ゲニーザ」など、多彩な図書館を紹介しながら波瀾の歴史を辿る”という内容紹介も目次も見られます。
第1章 図書館は宇宙に似ている
第2章 アレクサンドリア炎上
第3章 知恵の館
第4章 書物合戦
第5章 みんなに本を
第6章 知的遺産の焼失
第7章 書架のあいだをさ迷いつつ

ユダヤ人の書物の墓場とか図書館は宇宙とか、これは読みたかった本に違いありません。

著者は長年ハーヴァード大学の図書館司書をしている人です。ハーヴァード大のワイドナー図書館だけで450万冊、大学全体では1400万冊の本があるそうです。やはりこの本の中で、ホルヘ・ルイス・ボルヘスに出会いました。著者もまた、盲目の図書館長のあとをついていくうちに、書架を通り抜けて、インターネットの情報の洪水の中に入り込んで、この物語を書いたようです。

炎上したとされる古代エジプトアレキサンドリア図書館から始まって、歴史に翻弄された図書館と書物の物語です。始皇帝焚書ギリシャローマの図書館という文化を引き継いだのはイスラム文化であったこと、写本から印刷本に移行した時代の図書館の蔵書選択問題、図書館管理のイデオロギー、膨大な図書の目録の作成と分類システムの問題が次々に語られます。

1933年から12年間に、推定一億冊の本が六百万人の人間と共にホロコーストの火に投げ込まれたといいます。数々の発禁処分、ユダヤ人書物商を差し押さえて軍事費調達を行なった話は、「悪魔に魅入られた本の城」にもありました。ゲットーや強制収容所で迫害されたユダヤ人が本を渇望する様子には胸をうたれます。

人民解放軍によるチベット僧院の数十万冊の焚書スリランカで、アフガニスタンでも、図書館は抑圧の道具として使われ、また図書館の利用を制限するという別の形の黒人差別がアメリカにありました。ユーゴスラビア紛争でもたくさんの図書館と蔵書が破壊されています。サラエヴォ包囲を生き抜くためにやむを得ず燃料とした本の話もありました。どの本から燃やすか優先順位をつけるにあたって、”時には本を見つめていると、つい腹が減ってもいいと思ってしまう”という言葉が悲しい。

映画「デイ・アフター・トゥモロー」で、猛烈な低温から身を守るため、図書館の本を暖炉で燃やす場面がありました。他にも燃やせるものがありそうで、本を燃やす必然性がイマイチでしたが、ひとつの文化の崩壊を印象付けたかったのでしょう。この映画で出てきたのは、ニューヨーク公立図書館だったそうです。この閲覧室も、この入り口も映画にでてきました。この本では二十世紀初頭にできた最新型の書庫として、その断面図(scientific American 1911年の表紙)が紹介されていました。
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この本でもっとも気になっていた、“ユダヤ人の書物の墓場「ゲニーザ」”については最後の章にありました。サフォンの「風の影」に出ていた“忘れられた本の墓場”のイメージを持っていたのですが、ちょっとちがいました。でもゲニーザから来ているのでしょう。

『ゲニーザは、ヘブライ語で“倉庫”を意味し、シナゴグの一角にある,使い終わったあらゆる種類の書かれたものを集めておく場所のことで、一種の本の墓場であり、儀式用詩篇、過ぎ越し祭の古い典礼書,子供の書き方練習帳イメージ 3などのぼろぼろになった頁すべてが集められ、正式に埋葬されるまで保管されるところ。』ゲニーザについて全くの初耳です。ネットをたどり、Cambridge University LibraryのTaylor-Schechter Genizah Research Unitに行き着きました。このサイトに子供の書き方練習帳がありました。

書かれた言葉全般への畏敬の念が強いユダヤ教では,書かれたものがぼろぼろになったあと,冒涜されないように保存しておけば,本の中身は魂のように昇天する」とかんがえます。100年以上も前の話ですがカイロのシナゴグ修復の際に、はしごでしか近づけない隔離された場所にゲニーザが見つかり、紀元9世紀から紀元19世紀までの1千年にわたる書物や手紙などさまざまな文書が積み重なり、朽ちていたそうです。その中からは千年の間失われていた、ヘブライ語の貴重な原典が見つかっています。Jewish Vertual Libraryという図書館に説明がありました。

著者は「ミューズの鳥かごは今」で図書館と蔵書に対する深い思い入れを語っています。

私の利用する市立図書館は、平成15年市統計によれば、数箇所の分館合わせて130万冊くらいの蔵書があり、年間の個人貸出冊数はのべ290万冊です。それを民間委託しようとする動きが数年前にありましたが、多くの反対を受けて今はどうなっているのでしょうか