壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

消された科学史

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消された科学史
O.サックス、S.J.グールド、D.ケヴレス、J.ミラー、R.C.ルーウォンティン
渡辺政隆 大木奈保子訳 みすず書房 1997年2200円

無意識を意識する    ミラー
梯子図と逆円錐形図―進化観を歪める図像 グールド
嫌われものを追う―がんとウイルスと勇気ある追跡の歴史 ケヴレス
遺伝子と環境と生物        .ルーウォンティン
暗点―科学史における忘却と無視 サックス

オリバー・サックスの著作を探していて、見つけた本です。科学的発見が歴史において忘れ去られた瞬間というのが、共通のテーマのようですが、サックスの章がもっともそれを表しています。偏頭痛に伴う幻視、後天的な脳性色覚異常はサックスのお手のもの。色覚に関しては、ニュートンの物理的要因説に対するゲーテの色彩論(色は心的現象)からランドの実験までに長い時間がかかった事。時期尚早であったチャンドラセカールの星の縮退、集合論のゲオルク・カントル、理論物理学のボルツマンは分野の権威者から非難を浴びた。

イメージ 2グールドの章は、どこかで同じ趣旨のものを読んだように思います。生物や人類の歴史を表したもっともらしい図が、進化イコール進歩であるとの誤解を生むという主張です。ヘッケルの生命樹のような偏見に満ちた(人類を進化の最高峰とするような)書き方でなく、グールドの主張する断続並行進化をどう書き表したものか、グールド自身も悩んでいたようです。

がんとウイルスの関係は、二十世紀初頭にラウスが肉腫を発見した後、見事に無視されたが、1960年代に認められラウスは86歳でノーベル賞を受賞したという事です。それ以降、プロトオンコジーンの発見まで丁寧に書いてあります。

ルーウォンティンの章は、用語とメタファーの問題なので日本語で読むと意味不明なところがありますが、生物と環境の共進化を強調しています。